学芸員レポート 04年07月




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パスワード：日本とデンマークのアーティストによる対話

福島／CCGA現代グラフィックアートセンター　木戸英行

　今回は、CCGAで6月19日に始まったばかりの展覧会を紹介したい。
　「対話の必要性」など、昨今は、政治家の答弁みたいでなにやら気恥ずかしい。それというのも、イラク戦争や北朝鮮問題はいうまでもなく、家庭でも職場でも、ぼくたちは日常的に対話の必要性とその困難さに直面し、たいていの場合は無力感にさいなまれているからだ。
　とはいえ、いくら気恥ずかしくても、無力感に包まれようとも、対話それ自体は避けて通れない問題だ。デンマークと日本のアーティストそれぞれ5人による本展は、この対話をめぐる問題についてアートという舞台で実践を通して考えるために企画された。
　展覧会は、日本人とデンマーク人のアーティスト・ペアそれぞれがコラボレーション作品を通して彼らの「対話」を表現するというものだ。展覧会タイトルの「パスワード」とは、彼らがコラボレーションに向けて対話を重ねる上で鍵となった言葉である。会場では5組のパスワードのもとにアーティスト・ペアによるコラボレーションが繰り広げられた。
　一例をあげれば、高島陽子／ニコライ・レッケのペアは「SAILON（航海）」というパスワードのもとに、「モーフィング」というデジタル処理で合成した10パートからなるビデオ映像を制作した。この作品、対話をちょうど子育てのようなものと仮定し、子供との関係の中で彼ら自身が感じるさまざまな感情を、"不安"、"夢"、"強迫観念"といった10個の言葉にまとめた上で、それぞれを象徴するイメージを持ち寄り、それを合成したものだ。別々の世界が出会い、融合し、再びそれぞれの世界に回帰してゆく、ゆっくりとした映像のサイクルは、まさに子育てのように、あらかじめ決まった目的地にたどり着くのではなく、無限に繰り返される対話を詩情豊かに暗示している。
　この「パスワード」展、今回と同じメンバーで、2002年にデンマークのオデンセ市美術館で開催された「ブラインド・デート」と題する展覧会の続編として企画された。もともとのアイデアは5年前に当時CCA北九州に滞在していたデンマークのインディペンデント・キュレーター、アネッテ・ホイランドが構想したもので、日本とデンマークからそれぞれ互いに面識のない5組のアーティストのペアを選び、それぞれのペアは展覧会期直前に実際に会って作品を実制作するまで面会せずに、Eメールやファックスだけで対話を重ねながら作品プランを練る、というコンセプトの展覧会だった。その際のアーティストたちの対話の内容は展覧会のWebサイト（http://www.blinddate-art.dk/）上で随時公開され、今でも見ることができる。
　「ブラインド・デート」展の場合も主たるテーマは対話だったが、一方で、見ず知らずの相手とのインターネットを介したバーチャルなコミュニケーションと現実の出会いとのギャップという、いかにも今日的なゲーム性も重要な要素だった。それに対して、同じメンバーが再会する本展では「ブラインド・デート」のようなゲームは成り立たない。だからというのではないが、より直截に「対話」そのものがテーマとして設定された。
　もっとも、参加した5組のペアすべてが、高島／レッケ組のように彼らが考える対話の姿を鮮やかに共同制作で表現し得たわけではない。中には、愚直なまでに対話を実践するあまり、ひとつの作品を制作するという当初の目的は達せず、めいめいが個別に作品を制作したペアも出た。しかし、それはそれで対話の困難さをリアルに示す結果となったと言わなければならない。展覧会タイトルにある「パスワード」は、相手へアクセスするための鍵の機能と同時に、相手を拒絶する防御機能ももっているのである。つまり対話とは、そうした受容と拒絶の間を絶えず行き来せざるを得ないものなのだろう。

　会期は9月12日まで。夏休みにぜひご覧いただきたい。

会期と内容
●パスワード：日本とデンマークのアーティストによる対話
作家：井口大介、高島陽子、シノハラ楽、富田俊明、豊嶋康子、ソーレン・マルティンセン、ニコライ・レッケ、カスパー・ボネン、オーサ・ソーニャスドッター、カティヤ・ザンダー
会場：CCGA現代グラフィックアートセンター　福島県須賀川市塩田宮田1
会期：2004年6月19日（土）～9月12日（日）
休館日：月曜日、7月19日は開館
入場料：一般300円、学生200円、小学生以下、65歳以上、および障がい者手帳をお持ちの方は無料
主催：大日本印刷 CCGA現代グラフィックアートセンター
後援：デンマーク大使館
助成：The Danish Arts Council's Committee of International Visual Art
問合せ先：CCGA現代グラフィックアートセンター　Tel. 0248-79-4811
URL：http://www.dnp.co.jp/gallery/index.html

[きど　ひでゆき]



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