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学芸員レポート
札幌/吉崎元章|福島/木戸英行東京/増田玲高松/毛利義嗣
クサマトリックス 草間彌生展
北海道/札幌・芸術の森美術館 吉崎元章
《新たなる空間への道標》
《新たなる空間への道標》
《新たなる空間への道標》
《水玉強迫》
上から3点
《新たなる空間への道標》2004
下《水玉強迫》2004
 森美術館で話題を集めた「クサマトリックス 草間彌生展」がいよいよ札幌で始まった。彼女の新作によるこの展覧会は東京と札幌の二会場のみの開催である。六本木ヒルズの高層ビルの中で展開されたクサマワールドを体感された方も多いと思うが、札幌展はそれとはまたひと味違う魅力的な展覧会となっている。
 大きな違いはやはり芸術の森美術館の豊かな自然環境を活かした屋外展示。美術館前庭の芝生の上から池、さらに中庭にかけて、緑に映える約30点の水玉模様の真っ赤な立体作品が、風景をまったく異なったものにしながら展示室まで連なっている。屋外の広範囲な展示空間と積極的に関わりながら成り立つ草間の新境地とも言える作品であり、美術館にとってもこの空間をこれだけ広く使用したことはかつてなかったことである。池に浮かべた作品が水面に姿を映しながら風でゆっくりと動く様子には、細胞が分裂・増殖を繰り返す生物的イメージも重なり、美しさのなかに毒々しい異様さを増幅させている。水鏡の世界を上下反転すればまるで作品が空に漂ってるように感じられるのも、不思議な感覚である。訪れた人を一気にクサマワールドに導くこの《新たなる空間への道標》に対する反応を見ているとおもしろい。彼女の作品はよほど人を引きつける力があるのだろう。芝生の上に配置された作品には、小さな子どもは大抵、歓声を上げながら駆け寄り、家族連れやカップルが寄りかかったりまたがったりする光景は日常的なものとなっている。
 展示室内では、無限に反復、増殖する草間の造形世界を体感する作品が次々と展開する。作品は基本的に森美術館と同じであるが、シャンデリアや梯子作品のために暗室を設けるなど、よりつくり込んだ会場造作によって、その濃密さをさらに増している。水玉のバルーンが浮かぶ鏡張りの部屋《水玉強迫》も、床だけではなく天井も真っ赤である。なかでも人気は《蛍の群舞の中に消滅するあなた。》。真っ暗な部屋の中に一歩足を踏み入れると、いままで体験したことがないような幻想的な世界が広がる。刻々と色を変える光の点がどこまでも続いて見えるその空間のなかに、きっといつまでも佇んでいたくなることだろう。
 この展覧会は、会場順路が一筆書きのように整然とはしていない。迷宮のように入り組んだ構成も、クサマワールド。入口と出口が隣り合わせのため何周もする人も多く見られる。
クサマヤヨイの前衛ファッションショー
クサマヤヨイの前衛ファッションショー
「クサマヤヨイの前衛ファッションショー」風景
すべて写真提供:草間彌生スタジオ
 展覧会初日の6月5日には、オープニング・イベントとして「クサマヤヨイの前衛ファッションショー」が美術館前庭で行われ、会場を埋め尽くした約1000人の観客を魅了した。草間の監修のもと展覧会出品作《ハーイ、コンニチワ!》のドローイングから想を得て文化服装学院生が制作した衣装と、草間が60年代にニューヨークでデザインしたドレス(再制作)をまとった北海道文化服装専門学校生56人が、草間ととともに華やかなショーを繰り広げた。世界各地を訪れている彼女も、今回が北海道初訪問。少女時代から憧れの地であったと語りながら、美しい新緑の自然への感動をスピーチ。一度退場しかけたものの再びステージに戻り、自ら作詞作曲した『「マンハッタン自殺未遂常習犯」の歌』と『君は死して今(亡き父母に捧ぐ)』を披露して、会場を大いに盛り上げた。
 
会期と内容
●クサマトリックス 草間彌生展
会期:2004年6月5日(土)〜8月22日(日)
会場:芸術の森美術館
〒005-0864 札幌市南区芸術の森2丁目75
TEL:011-591-0090
FAX:011-591-0102
 
[よしざき もとあき]
札幌/吉崎元章|福島/木戸英行東京/増田玲高松/毛利義嗣
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