バックナンバー
2020年01月15日号のバックナンバー
フォーカス
記憶と忘却の境界に「民話」は潜む
[2020年01月15日号(畑中章宏)]
ドキュメンタリーは事実がそのまま記録されるわけではない。撮影や編集の段階で、演出が行なわれ、編まれ、フィクションが介入していくものである。それは人の記憶と語りそのものに無意識のうちにフィクションが介入しているのと近しい。そのフィクションと事実のあわいのなかで、私たちは過去・現在・未来の時間を自由に行き来するのだ。
2月7日からはじまる第12回恵比寿映像祭のテーマは「時間を想像する」。映像作家が見せる独自の時間の感覚を、現代社会の局面から生まれている新しい時間の概念を、出品作品のなかに発見することができるだろう。
今号ではそのなかでも、東日本大震災の後、記憶が宿るはずの風景を奪われた土地で生きていく人々の語りをもとに、インスタレーション、出版、映像とさまざまな形で作品を発表している小森はるか+瀬尾夏美の新作について、民俗学者の畑中章宏氏にご寄稿いただいた。(artscape編集部)
キュレーターズノート
非力さを再考する
[2020年01月15日号(田中みゆき)]
アート&カルチャー情報サイト「Hyperallergic」が毎年行なっている「The 20 Most Powerless People in the Art World(アート界で最も非力な20人)」の2019年版
に「障害のあるアーティストとアートファン」が選出された。このリストは、20人の存在を通して限られた既得権益が支配するアート界の構造を批判するものだが、ある意味、障害のある人たちの存在がアート界に関わるものとしてようやく認知され始めたことを表しているとも言えるだろう。障害のある人の表現を展示する、あるいは障害のある人と共に作品を鑑賞することにおいて、ハード面とソフト面の両方において課題があるとわたしは思う。いずれも従来の美術館や劇場という制度、そして作品における作家や鑑賞者の位置付けに挑戦するものである。しかし、障害の問題に限らず、人間を世界の中心に据える思考や行動を再考せざるをえない出来事が現実世界では起こっている。それに対し美術館や劇場はどう反応できるのだろうか。なぜアジアを語り続けるのか──
第7回アジア・アート・ビエンナーレ「山と海を越えてくる異人(The Strangers from beyond the Mountain and the Sea)」
[2020年01月15日号(能勢陽子)]
シンガポールのホー・ツーニェンと台湾のシュウ・ジャウェイの二人の作家の企画による第7回アジア・アート・ビエンナーレのテーマは、「山と海を越えてくる異人(The Strangers from beyond the Mountain and the Sea)」である。「異人」は、民俗学者の折口信夫による、贈り物とともに異界から訪れる超自然的な存在の「稀人(まれびと)」から来ている。そして山は、東南アジア山塊上の約250万平方キロメートルに渡る高地ゾミアを言い、国境地帯に広大に跨るこの地域は昔から少数民族、移民、政治犯の避難地帯にもなってきた。また海は、フィリピン南西、マレーシアの北東に位置するスールー海を差し、ここは16世紀から海賊が横行し、現在はテロ組織の活動海域にもなっている。
「異人」は地理上の辺境と交じわることで、神や人と自然を媒介するシャーマンというだけでなく、外国商人、犯罪組織、難民などのあらゆる「見知らぬもの」を包摂した存在となる。そうした「異人」が、私たちの民族的アイデンティティや国家の境界、社会のシステムを揺るがし、新たなものを産む触媒になるのだ。固定観念を超えた自由も危険も、その辺境にある。「山と海を越えてくる異人」は、歴史的、地理的にそうした場所であった辺境を、山=鉱物、海=雲(クラウド)まで広げて、人間中心主義的な視点による時空間を越え、中心を持たず絶えずダイナミックに変容していくアジアを捉えようとする。
アッセンブリッジ ・ナゴヤ 2019
現代美術展「パノラマ庭園─移ろう地図、侵食する風景─」
[2020年01月15日号(吉田有里)]
前回の記事に続き、アッセンブリッジ・ナゴヤ 2019の後編(前編はこちら)。
2016年から、港まちを庭に見立てた「パノラマ庭園」のタイトルのもと「移ろう地図、侵食する風景」を副題に2年に渡るプロジェクトを展開してきた。
アッセンブリッジ・ナゴヤがスタートしてからの4年間、港まちの風景は変化を続けている。建物の取り壊しや商店の閉店、空き地や空き家の増加の一方で、駐車場や高層マンションの建設などが進んでいる。このようなまちの変化を受け止め、観察を続けるとともに、このエリアを起点としたアーティストの滞在や調査、パフォーマンス、コレクティブワークなど、制作活動の総体を「プロジェクト」と定義し、この場で生まれた新たな表現を紹介してきた。
今回は、後編として参加アーティストの中から、折元立身、千葉正也、山本高之を紹介する。
トピックス
[PR]複製に宿るオリジナリティ──
職人の技とITがつくる複製原画「プリモアート®」
[2020年01月15日号(影山幸一)]
「複製画」と聞いてどのようなシチュエーションが思い浮かぶだろうか。例えば美術館のミュージアムショップでお土産として販売されているものや、クリニックの待合室で目にするインテリア、あるいは展覧会で保存状態維持の観点から実物の代わりに展示されているものなど、私たちは意外と多くの場所で複製画を目にしている。
株式会社DNPメディア・アートでは、印刷会社で培われてきた最新鋭の技術力を活かし、高精彩複製画「プリモアート®」の製作を行なっている。その制作過程の緻密さと奥深さ、そして複製画の今日的な意義を、本サイトでの連載「アート・アーカイブ探求──絵画の見方」の著者でもあるア-トプランナー/デジタルアーカイブ研究者の影山幸一が読み解いていく。(編集部)