nmp8月21日号から隔号連載を開始したこの小文は、アートに関する統計・資料をひもとき、例えば「鑑賞料金」「参加者数」等の具体的なデータを取り上げて、それを話のマクラに芸術文化振興政策やアートマネジメント等についてコメントしていこうというものである。
わが国の美術館でのボランティア活用は、1974年に導入した北九州市立美術館が皮切りであると言われている。そもそも美術館がボランティアを導入した経緯としては、美術館職員の人手不足を補完するための“苦肉の策”の側面もあったようであり、また、閉鎖的になりがちな美術館に一般市民の視線を導入する、という意義もあったようだ。
一方、95年の阪神淡路大震災の復旧時においては、延べ約130万人ものボランティアが参加したこともあり、近年ではボランティア活動全般が脚光を浴びている。また、震災というインパクトの他、我々の社会・経済を取り巻く環境が大きく変化し、芸術・文化や教育、保健・医療、環境、街づくり等の様々な局面における社会的ニーズが多様化・高度化している。
このような背景のもとで、「自分たちがほんとうに望む社会的サービスとはどのようなものなのか」という問題を市民が自ら考え、市民の視点から企画・実践する活動、すなわちボランティア活動の必要性が高まってきたものと想像される。
実際、総務庁の「社会生活基本調査」によると、15歳以上の国民のうち過去1年間に「社会的活動(いわゆるボランティア活動)」を行なった人(=行動者数)は約197万人、行動者率(=行動者数/人口)は6.6%と、かなりの規模になっている。
そして、ボランティア活動そのものも、従来の「時間的にも経済的にもゆとりがある奇特な人たちによる慈善活動」という性格から、美術館をはじめとする地域社会活動に積極的かつ主体的に参画し、共に責任を担っていくという性格の活動に発展しているようだ。
さて、アートの分野に目を移してみると、文部省の「社会教育調査報告書
平成5年度」によれば、わが国の美術館(美術博物館)におけるボランティアの活動状況は、平成4年度1年間で、延べ51,624人という数字になっている。
この内訳は、美術館に登録しているボランティア団体を通じての登録者が延べ35,190人、また、個人としての登録者数が延べ16,434人である。また、ボランティア活動を導入している美術館の館数をみると、全国で74館あり、全体の11.4%となっている。
これらのボランティアの具体的な仕事の内容は、展示解説、資料整理、ワークショップの手伝い、事務補助、受付・案内、喫茶・売店での販売などのほか、ボランティア自らの発案によって実現した活動もある。
このようなデータから、アートと地域住民の関わり方についても、今までのような“みる(鑑賞)”または“する(創作)”だけでなく、アートを“ささえる(メセナ、ボランティアなど)”まで含めたかたちに発展してきていることが見てとれる。
その意味では、美術館のボランティアとは、美術館を拠点とした地域における「アートのサポーター」とも言うこともできる。そのような見方でボランティアを捉えると、Jリーグやワールドカップなど、スポーツ・イベントでのボランティア活用の事例が今後の美術館運営や展覧会運営の参考になるかもしれない。
なお、東京都生活文化局の「文化行政とボランティアに関する調査報告書」(平成6年5月)によると、美術館におけるボランティア活動について「自分がどの程度役に立っているのか分からない」と回答したボランティアが約3割もいるという結果となっている。
今後、このような課題に対応していくため、美術館という社会的機能の中でのボランティア活動の目的・意義をよりいっそう明確化する必要があるし、そのうえで、ボランティア活動をどのように評価していくのかが重要な課題となってくるであろう。
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