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データにみるアート−3
17時46分
太下義之

nmp8月21日号から不定期連載を開始したこの小文は、アートに関する統計・資 料をひもとき、例えば「鑑賞料金」「参加者数」等の具体的なデータを取り上げて、 それを話のマクラに芸術文化振興政策やアートマネジメント等についてコメントして いこうというものである。

今回の題名は「17時46分」という意味ありげな時刻である。これは、丸の内に勤務 するOLの平均的な退社時刻でなければ、都内在住アーティストの芸術活動の開始時 間でもなく、実は東京都内に立地する美術館(30施設)の閉館時間の平均値である( 96年11月時点、三和総合研究所の調査による)。
 この閉館時間の平均値を国公立の美術館と民間の美術館とに分けてみると、2つの グループ間にはやや差異が見られる。具体的には、国公立の美術館(14施設)の開館 時間の平均は「17時17分」であるのに対して、民間の美術館(16施設)の開館時間の 平均は「18時11分」となっており、両者の間には約1時間の開きがあることがわかる。  また、調査対象とした国公立の美術館の半数(7施設)の閉館時間が「17時00分」 に集中しているのに対して、民間の美術館の半数(8施設)の閉館時間は「19時00分 」以降となっており、中には「セゾン美術館」や「原美術館」のように、「20時00分」まで開館しているケースもある。

ところで、上述のように国公立の美術館の閉館時間が「17時台」であるということ は、具体的にはどのような影響を一般の人々に与えているのであろうか。
 まず第一に、閉館時間が「17時台」では、普通のサラリーマンやOLが会社帰りに 気軽に立ち寄って美術鑑賞をすることはできない。つまり、彼ら(彼女たち)が平日 に美術館へ行こうとする場合には会社を早退(または欠勤!)する必要があるという わけである。
 また、あまりに早い閉館時間は周辺のまちにも暗い影を投げかけることになる。例 えば、上野界隈には、東京都美術館東京国立博物館をはじめとして、上野の森美術館、国立科学博物館等、多くの美術館及び文化施設が集積しているにもかかわらず、夜になる極めて寂しいまちとなってしまう理由のひとつに、この閉館時間の問題があると推測される(話はやや横道にそれるが、かつて原宿の東郷神社近くに「ギャラリーフェイス」というギャラリーが存在した。このギャラリーは夜遅くまでオープンしているだけではなく、併設されたバーカウンターにてアルコール類も摂取できるという、極めて優れたコンセプトのギャラリーであり、その閉鎖がたいへん惜しまれている)。

というわけで、一般の会社員でも平日に気楽に美術鑑賞ができるようにするための ひとつの方策として、特に国公立美術館の閉館時間を現在より遅く設定することが必 要であろう。昨年の三和総合研究所のインタビュー調査においても「閉館時間の延長 によってリピーターが増えた」という美術館サイドのコメントがあげられており、閉 館時間の延長は美術鑑賞の機会の拡大に関して一定の効果があると期待される。
 また閉館時間の延長と同時に、周辺に立地する美術館との共通入場券の発行や美術 鑑賞後に立ち寄るのに最適な雰囲気の周辺の飲食店リストの配布等、周辺のまちやひ とと一体となって、より良い鑑賞のための雰囲気づくりを図るのもひとつのアイデア ではないだろうか。

このような施策を実現していくためには、まず第一に美術館の施設条例を改正した うえで、職員及び外部委託業者(管理等)の勤務規定を時間延長が可能なように変更 し、同時に人件費(及び委託費)増額のための予算措置をしておくことが必要となる。  また、単に美術館の閉館時間が延長されればよいという問題ではなく、上述したよ うに美術館というひとつの“点”をまちという“面”へつなげていく必要もあると言 えよう。

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