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art management
データにみるアート−10
¥784
太下義之

nmp1997年8月21日号から連載を開始したこの小文は、アートに関する統計・資料をひもとき、例えば「鑑賞料金」「参加者数」等の具体的なデータを取り上げて、それを話のマクラに芸術文化振興政策やアートマネジメント等についてコメントしていこうというものである。(最終回)

三和総合研究所が調査・編集を担当した『東京における文化事業の実施に関する構造調査』(東京都生活文化局コミュニティ文化部)によると、平成8年10〜11月の2ヶ月間に都内の美術館で開催された展覧会のうち有料の特別展を抽出して入場料金を集計、平均価格を算出したところ、約784円という結果となっている。この東京の入場料金の平均価格を欧米4都市(ロンドン、ニューヨーク、パリ、ベルリン)と比較してみると、東京が最も高く、次いでロンドン(約709円)、パリ(約656円)、ニューヨーク(約610円)、ベルリン(約434円)の順となっており、この結果だけをみると、東京における展覧会の入場料金は高額であるようにも思われる。

一方、同調査においては、一般都民2,700人を対象としたアンケート調査も実施しているが、このアンケートにおいて「展覧会に行く際に困ること」について聞いたところ、「入場料金の価格が高すぎる」が23.8%の人からあげられている。また、『第7次東京都文化懇談会答申 都市文化の創造を目指して』(平成9年1月、東京都)においては、東京の文化の課題として、「舞台公演や美術展の入場料、託児設備、情報入手の問題などが考えられる(後略)」と記述されている。
さらに、『第7次東京都文化懇談会の中間のまとめ』(平成8年3月)においては、「外国と比べて鑑賞料金が高い。家族で鑑賞を楽しんだり、何度も足を運んで好きな作品を見たりというには、負担が重い」と、より直接的に指摘されている。
ただし、鑑賞者の実際の負担感を明らかにするためには、東京(わが国)の物価水準が欧米4都市と比較してどれだけ高いかを国別に算出し、この国内と国外との格差(=内外価格差)を考慮して判断しなければならない。
この内外価格差を考慮して入場料金を比較すると、実はロンドンが最も高くなり、次いでニューヨーク、パリ、東京、ベルリンの順となり、東京における展覧会の入場料金はむしろ安価であるという結果となる。(しかし、データを読む場合には常に注意が必要である。上記のデータは有料の展覧会を調査対象としているが、欧米の主要美術館は無料で公開しているケースが多いため、東京における展覧会の鑑賞費用そのものが安価であるということにはならない点に留意が必要である)。
さらに、興味深いデータがある。前述のアンケート調査において、適当と思われる入場料金を聞いたところ、国内作品による展覧会(国内展)は平均して865円、海外作品による展覧会(海外展)は平均して1,038円となっており、実勢価格の方が適当と思われる価格を下回る(安い)結果となっている。

このように矛盾するデータを勘案すると、次のような解釈が導き出される。すなわち、「展覧会の入場料金が高い」と感じている人は確かに存在するが、実は大半の都民は現状よりも価格負担力がある、という解釈である。
自分自身の生活の中で考えてみても、オフィス街でそこそこのランチ(概ね1,000円程度)を食べるよりも安く、ちゃんとした美術館で芸術鑑賞(約784円)ができるということであり、展覧会に行く際に「困ってしまう」ほどの価格水準では決してないことが理解できる。
以上から、一般の人々が気軽にアートを楽しむようになるために、料金面の施策だけを実施したとしても、その効果は限定的になるものと予想される。言い換えれば、展覧会(アート)に対する社会的需要を拡大するためには、料金以外の阻害要因に関しての施策を真剣に検討する必要があると言えよう。

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