公開日:2025/2/8
上映館: シアター・イメージフォーラム[東京都]ほか
公式サイト:https://www.zaziefilms.com/loshiperboreos/
© Leon & Cociña Films, Globo Rojo Films
2020年代も折り返しにさしかかろうとする現在、クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャ(以下、レオン&コシーニャ)の仕事が、グローバルな視覚表現のシーンのなかでひと際異才を放っていることは明らかだ。アーティスト・デュオとして活動する彼らは、作品を美術館などでの公開制作やワークショップで作り上げることも多く、アニメーションを基本としながらも、インスタレーションなども含め、メディアにとらわれない形態で発表をしている。こうしたアートとの距離感で言えば、アビチャッポン・ウィーラセータクンともポジション的には近いと言える。
この日本ではベルリン国際映画祭など世界各国の映画祭で数々の賞を受賞した長編アニメーション『オオカミの家』(2018)が23年に劇場公開され、異例のスマッシュヒットを記録したことは記憶に新しい。また、新世代ホラーの旗手アリ・アスター監督の『ボーはおそれている』(2023)のアニメーションパートではスタッフとして参加し、無二の世界を現出させていた。Radioheadのトム・ヨークとジョニー・グリーンウッドを中心としたバンドThe Smileの「Thin Thing」のMVでもその世界観はいかんなく発揮されていた。
陰惨なムードを湛えながら対象が生成と消滅を繰り返すストップモーション・アニメーションに、彼らのシグネチャーのひとつがあるということに疑問の余地はないが、レオン&コシーニャのもうひとつの特徴として、虚実を巧みに操作した作劇があげられる★。例えば『オオカミの家』はさまざまな人権侵害等が行なわれたチリ南部のドイツ系移民のコミューン、コロニア・ディグ二ダにて製作されたファウンド・フッテージという体裁が取られていたし、日本では同作と同時上映された『骨』(2021)は世界初のアニメーションのフィルムが発見されたという設定だった。
© Leon & Cociña Films, Globo Rojo Films
このたび日本で劇場公開される長編第2作『ハイパーボリア人』(2024)もまた、これまでと同様入り組んだ設定を持つ作品であることは間違いない。とはいえ、同作に関してはそのメタ構造がある種明快であり、レオン&コシーニャのストーリーテリング面の特徴が掴みやすい作品だと言えるだろう。
主役として本人役を演じるアントーニア・ギーセンは、自身が出演したフィルムが盗難にあい、その内容を記憶をもとによみがえらせることが制作の目的であるということを映画の冒頭で──第四の壁を破って──観客へ訴える。これだけでも十分にメタ的な構造、演出なのであるが、劇中で取り上げられるチリの作家、外交官のミゲル・セラーノ(1917-2009)の存在や、レオン&コシーニャもまた本人役で出演し、演技指導をするなど、過去と現在、虚構と現実を行き来しつつ、実写、アニメーションとさまざまな技法が駆使されながら物語が進行していく。
(後編へ)※2025年2月12日(水)公開予定
© Leon & Cociña Films, Globo Rojo Films
鑑賞日:2025/1/7(火)
★──この点ではここ数年日本で作品を見る機会が多かったホー・ツーニェンとも共通性を感じる。