
会期:2026/04/11~2026/06/14
会場:渋谷区立松濤美術館[東京都]
公式サイト:https://shoto-museum.jp/exhibitions/211asia/
目下、イラン情勢に世界の注目が集まっているが、そのすぐ近隣の中央アジア諸国についてとなると、我々日本人はあまりよく知らないのが正直なところではないか。具体的にはカザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、キルギスの5カ国である。かつて旧ソ連下にあり、1991 年のソ連崩壊時に独立を果たし、その後、市場経済を取り入れた民主主義国へと生まれ変わった。最近では、大阪・関西万博でトルクメニスタンのパビリオンがひときわ個性を放っていたことを思い出す。そんな万博での印象しかないまま、本展を観たのだが、緻密な手仕事の数々にとにかく圧倒された。

展示風景 渋谷区立松濤美術館
西アジアも含めてこの辺りは絨毯の産地であることは知っていたが、中央アジアは全般的に工芸美術が盛んな地域のようだ。イスラム文化の影響も大きいのだろう。神秘的で複雑な抽象文様は絨毯のみならず、さまざまなテキスタイルや金属工芸、木工芸に用いられてきた。それらは彼らが普段身に付ける衣服にもなった。またトルクメン人の場合、頭や首、胸、背中、腕、指と身体の至るところにジュエリーを装着する民族衣装が伝統として根付いている。日本人の感覚からすると、やや過剰にも思えるジュエリーは、彼らにとっては身を守るお守りであり、部族や地位を示す目印であるという。さらに遊牧民が多いため、常に持ち歩く財産でもある。ジュエリーには清浄の象徴とされる銀が使われるとのことなので、相当な重さが身体に掛かっているはずだ。しかしお守りであるからには、その重さが安心感にもつながっているのだろう。またテキスタイルにもジュエリーにも、赤色がふんだんに使われているのが印象的だった。赤は日本でも古来、魔除けとして用いられてきた色であり、その共通概念が興味深い。

展示風景 渋谷区立松濤美術館
手の込んだ工芸品は、出来栄えの満足感だけでなく、それを作る過程すらもきっと人を幸せにするのだろう。糸を一針一針刺す、パーツ同士をつなぐといった地道な作業は、無我夢中という言葉どおり、我を忘れて没頭するのに最適な行為となる。さらに作りながら願いを込めたり、家族や親しい人を思ったりすることで、そこには自分だけの幸せな時間が流れる。彼らが身につけている重厚な民族衣装には、そうした背景もあるのではないかと想像させた。

展示風景 渋谷区立松濤美術館
鑑賞日:2026/04/23(木)