発行年:2026
版元:けはい出版
公式サイト:https://withdilemma.theshop.jp/items/141822340

『交差点で:デザイン、言語、経験』はビジュアルコミュニケーションデザイナー、環境活動家の平山みな美によるインタビュー集である。横浜を拠点とする独立出版社兼印刷所NEUTRAL COLORSの依頼で、彼女がオランダの文化施設で滞在制作を行なった際の成果物として制作された。

「主に気候変動、環境問題、ジェンダー不平等などに取り組む団体や企業のデザインを率先して引き受けている★1」平山であるが、そんな問題意識をこの滞在でも深めようと、取材対象との対話に際し「文化的な表象という言葉を聞いて、思い浮かべるオブジェクトを持ってきてほしい★2」と伝え、それをきっかけとした議論が同書には収められている。この「文化的な表象」というテーマはきわめて広範であり、話題が抽象的になってしまう可能性もあるだろう。しかし平山は具体的に対象を「名指す」よう提案することによって、その懸念を回避している。

対話に応じた6組の活動はさまざまだ。むしろ「デザイン」という領域をメインのフィールドとしているのは、ルーベン・パター(Ruben Pater)ぐらいと言ってもいいかもしれない。彼にしても『The Politics of Design』(BIS Publishers、2016)のようにデザインが孕む政治性、権力性について書いた著作があり、さまざまな活動に取り組んでいる。平山の依頼に応じたのは他にキュレーション集団、グループなど多様であり、複数のアウトプット──書店、出版、展示、社会運動など──に取り組んでいるケースが多い。

彼/彼女たちのアクチュアルで柔軟なアプローチについては実際に本を参照されたいが、印象に残ったのは女性やノンバイナリーアーティストを支援するイニシアチブのグローイング・ペインズ(Growing Pains)のメンバーが持参した文化的表象である。彼女たちが対話の起点としたのは、オランダの税務局が使用する封筒だった。

オランダでは育児給付金制度を悪用し、不正に受給した後国外逃亡した詐欺事件が2013年に発覚した。そして政府はその後、対策として「二重国籍者、主に西洋風でない姓を持つ者、そしてひとり親家庭を特に標的とするシステムを導入★3」する。AIも使われていたというこの人種差別的なシステムによって、オランダでは何千もの家族が身に覚えのない詐欺の告発にあい、給付金の返還を求められたのである。

18年にこのスキャンダルは発覚し、関与した内閣は失脚したが、人種によるプロファイリングは制度の一部に未だ残り続けているとグローイング・ペインズのジュニア・スヴェンスチンスカヤは語る。オランダの国章がビジュアルアイデンティティとして小さめに印刷され、簡素なタイポグラフィで構成されたこの税務局の封筒は、極めて事務的で「モダン」なデザインである。しかし、その背後にはアルゴリズムとして組み込まれた人種バイアスがあり、そこにある権力を──結果的に──表わしているのである。

★1──平山みな美編『交差点で:デザイン、言語、経験』(けはい出版、2026、13ページ)
★2──同上、7ページ
★3──同上、91ページ

(後編へ)※8/17公開予定

執筆日:2026/05/15(金)