会期:2025/11/27~12/20
会場:@btf[東京都]
公式サイト:https://www.butterfly-stroke.com/at/hirosugiyama

前編より)

竹屋すごろくのイラストレーションが先行世代と関連付けられるもうひとつのポイントは「キッチュ文化」だ。高野光平は戦後日本社会におけるノスタルジーの変遷について書いた著書の中で、「七〇年代の後半から、懐かしい雰囲気を帯びた雑貨が流行に敏感な少年少女たちにおしゃれなものとして受け入れられていく★5」と述べている。このころから直接過去を当事者として体験していないにも関わらず、自らの個性確立の選択肢として過去の事象を愛好する「キッチュ文化」が確立したと高野は指摘する

その流れは、80年代のイラストレーションからも観察できることだ。高野がここで例に挙げるのは、82年にアルバムデビューした上野耕路、太田蛍一、戸川純による音楽ユニット「ゲルニカ」である。イラストレーターとしても活動し、同ユニットで作詞とアートワークを手がけていた太田のイラストレーションは、松野一夫に代表される戦前の怪奇小説にあるおどろおどろしさをより過剰に強調したスタイルを特徴としていた。

また、ヘタうまの代表的存在として80年代に活躍した霜田恵美子も忘れてはならない。42年生まれのイラストレーター安西水丸は霜田のイラストレーションを「子供のころよく行った駄菓子屋さんなんかにある風船のクジの絵」と評しているように、そのレトロ趣味は当時の少年少女が当事者として体験していない時代のイメージだった。

このように80年代のイラストレーションには、ゲルニカのようなニューウェーブや、霜田が表紙を描いたこともある『ビックリハウス』といったサブカルチャーの領域で、自由に過去の表象をリバイバルする傾向が見出せるようになる。また、太田や霜田の事例で興味深いのは、そこにおいて召喚されるのが、欧米のイメージではないという点である。日本的な表象の活用といえば、先行事例で目立ったものとしては横尾忠則の仕事があるが、彼の場合は和製ポップアートとして同時代的、日常的モチーフを流用するという意図も伴っている。その点において、太田や霜田の仕事はそのようなノスタルジーの感覚を積極的にイラストレーションに活用したものとして歴史的に重要なものだと言えるだろう。



「竹屋すごろくは誰だったのか? ヒロ杉山と竹屋すごろくの展覧会」展示作品[筆者撮影]

そして竹屋の仕事にも、こうした「古さ」への感覚が見出せる。なぜなら下地となっているアメリカン・コミックが絵の具の剥落によって表面から見えるようになっており、その壁面の塗装が剝がれたような時間経過を想起させるからである。実際、ヒロはこのマチエルについて、メキシコを訪れた際見た壁画の剥落のような表現をしたかったと述べている★6。そして、そもそも下地に使用しているアメリカン・コミックも古書店で購入したものであり、竹屋が直接享受したものではない。コラージュというより即物的な手法を用いているという点を鑑みると、竹屋の仕事は80年代のイラストレーションが開拓した過去への感性を、より拡大・先鋭化させものだと捉えられるだろう。それは90年代的な語彙で言うならば「引用」や「編集」に他ならず、ここにおいて竹屋の仕事は、伊藤桂司に代表されるような時代感覚と共鳴するのだ。

つまり竹屋のイラストレーションは「バタ臭い」70年代のイラストレーション以降のものであり、そこから派生し80年代に花開くことになる「ヘタうま」を意識的に継承し、それと同時に70年代後半以降サブカルチャーのモードとして定着するキッチュ感覚を、90年代的なサンプリング感覚に橋渡しするようなものとして要約できるだろう。

このように竹屋の仕事を90年代という当時の同時代、あるいはその先へと視点を移すならば、上野よしみや小田島等といった匿名的に意匠化されたポップ感覚にも接続し得る。そして、不況の時代にマッチし、00年代以降より注目を集めることになるキャラクター重視のスタイルの先駆者のひとりとしても位置付けられそうである。また、商業的には成功しなかったかもしれないが、当時のヒロのシュールな作風と全体的に塗りこめられた画面作りは、初期白根ゆたんぽや本秀康の仕事と、矢吹申彦のボヘミアンなスタイルをつなぐ存在として位置付けることもできそうだ。

竹屋/ヒロは学生時代から湯村輝彦の事務所に出入りし、大きな薫陶を受けたことから、「ヘタうま」の直系として自らをプレゼンテーションすることが多い。そういった側面についてはすでに言及した通りであるし、彼の重要な特徴を形作っている。しかしそれを客観的に相対化し、70年代的なバタ臭さを経由してより広いイラストレーション史的な視座から眺めることによって、さまざまな要素を抽出することができた。その意味で竹屋/ヒロの存在は、日本の90年代前後のイラストレーションをより深く理解するための有用な触媒だと言えるだろう。

 

★5──高野光平『昭和ノスタルジー解体 「懐かしさ」はどう作られたのか』晶文社、2018年、60ページ
★6──前掲書第3章

 

鑑賞日:2025/12/12(金)