会期:2026/06/13~2026/07/01
会場:京都 蔦屋書店 エキシビションスペース[京都府]
公式サイト:https://store.tsite.jp/kyoto/event/t-site/54774-1246490601.html

沖縄の伝統的な染織技法の 紅型 びんがた 、高級ブランドやファストフード店の紙袋といった日常的な素材を用いて、沖縄の近現代史と地政学、グローバルな消費資本主義、社会の権力構造と価値の変換を鋭く提示してきた照屋勇賢。本展では、紅型の型紙を模したカットワークのシリーズ「呪いを解け/Break the Curse」と、ボードゲーム「モノポリー」で使用される紙幣を切り抜き、別の形に変容・解体する「Monopoly」シリーズを中心に、近作が展示された。

[photo:MA YUE]

13組で構成される「呪いを解け/Break the Curse」は、沖縄戦を生き延びた照屋自身の祖父の記憶を元に、ストーリーが影絵芝居のように展開する。佇む少年の頭上に戦闘機が飛来し、桜の花やツバメといった伝統的な吉祥文様とともに、パラシュート兵が降下する。伝統的で華やかな紅型の文様と、戦闘機やパラシュート兵など米軍(基地)を象徴するモチーフを共存させる手法は、代表作のひとつ《結い、You-I》(2002)を引き継ぐものだ。艶やかに染め上げられた《結い、You-I》は、遠目から見ると、「鮮やかな色彩で彩られ、琉球王朝文化の伝統が残る南国の島」という他者から期待される沖縄像を提示する。だが、そのなかにパラシュート兵やオスプレイが紛れ込み、流水文様が滑走路に取って代わられるなど、伝統的な文様が米軍基地に浸食される事態は、近づいて目を凝らさないと気づけない。「あなたと私」というタイトルが示唆するように、本作は、「沖縄戦とアメリカ統治時代を経て基地との共存を余儀なくされる沖縄」という自画像と、「他者」として沖縄に向き合う距離感それ自体についても問いを投げかけ続ける。


照屋勇賢《呪いを解け/Break the Curse Gold #03》(2025)[筆者撮影]

「一枚の絵」のなかに沖縄の近現代史や「他者から見られる沖縄」を矛盾とともに圧縮した《結い、You-I》に対し、「呪いを解け/Break the Curse」では、照屋の祖父を投影したと思われる少年が、暗示的な物語の主人公となる。この世に生を受けたことを祝福するように降り注ぐ桜の花やツバメの吉祥文様は、パラシュート兵と爆弾という禍々しいものに変わり、失った片足には義肢がはめられる。義肢は花へと変容するが、その傍らには、冷戦下での沖縄への配備を暗示する核爆弾が添えられる。やがて少年の義肢や頭部にはロボットアームが伸ばされ、部品のように取り換えられる事態は、トラウマ的な記憶の喪失や、照屋へと記憶が受け渡される「移植」をも暗示する。本シリーズは黒と金の2色で対になっているが、鏡像のように左右反転した構造は、「祖父の記憶と向き合う照屋」という関係とともに、過去との対峙を余儀なくされ続ける沖縄自身の自己像の提示でもある。また、「黒と金」という対照的な色は、「常夏の楽園のリゾートの島」と「沖縄戦の過酷な傷痕や基地の過重負担」という、沖縄が背負わされた明暗すなわち「光と影」を強烈に視覚化する。さらに、時計の数字や英文が登場するシートを見ると、「金色」の方が左右反転した鏡像であることに気づく。金色すなわち「光」を当てられてまばゆく輝く沖縄とは、「正像」ではない虚像であることが示唆される。

[photo:MA YUE]

一方、染めの工程を重ねるように13枚のカットワークをすべて重ね合わせた作品では、時間の連続性を地層として可視化する。手前の図柄は前景化する一方、奥の図柄はほぼ見えない。歴史はまさに時間の堆積であると同時に、「すべてを見ることはできず、不可視の存在が底に沈んでいること」を暗示する。また、切り抜いたパーツどうしをつなぐ垂直と水平の線は、層として重ね合わせることで、牢獄の格子のなかに閉じ込められているようにも見えてくる。

照屋勇賢《呪いを解け/Break the Curse Gold complete》(2025)[photo:MA YUE]

加えて本展では、盤上の不動産を売買して富の独占を競うボードゲーム「モノポリー」で使用される紙幣を切り抜き、資本や帝国主義を象徴する形に再構築する「Monopoly」シリーズも展示された。同シリーズには、美術館などの巨大建築やモノグラムの形を再構築するなど、複数のシリーズが含まれる。そのうちのひとつの「Jewelry Royals」シリーズは、玩具の紙幣に加え、ゲームで使用される家などの形を模したコマを用いて、大英帝国の豪華なジュエリーの形に作り替えたものだ。帝国の権力と繁栄を象徴するものが、植民地から収奪した富で形作られている構造自体をコピーすることで、帝国主義的な軍事力や本土の企業によるリゾート開発など、沖縄で現在も続く搾取や消費へと、軽やかな手法で想起を促す。また、ジュエリーを模した作品を「梱包用のクレート」とともに展示する手つきも両義的だ。それは、モノや資本のグローバルな流通、国境を越えた移動や越境を示唆すると同時に、帝国主義や消費資本主義を批評する作品自体が「高額な商品」としてグローバルなアート市場で売り買いされる事態も皮肉に提示する。

照屋勇賢《Jewelry Royals #1》(2024)[photo:MA YUE]

さらに本展では、カラフルな風船を水彩で描いた《Heavy Pop》と、昭和天皇と沖縄に関する米軍の機密文書をTシャツにプリントした《Magical spells》も展示された。「風船」は、「呪いを解け/Break the Curse」の後半にも登場する、象徴的なモチーフだ。地上を離れ、空中へと上昇していく色とりどりの風船は、「パラシュート兵の降下」と好対照をなす。ここで「降下」のベクトルは、兵士や爆弾の投下に加え、日米双方からふりかかる抑圧や、「歴史への下降」といった多義性を示唆する。一方、風船の「上昇」には、「過去の重荷や歴史の重圧から解放されたい」という希求も読み取ることができる。

《Magical spells》でプリントされたのは、1947年に昭和天皇から連合国最高司令官に宛てた機密文書で、「日本の主権を残した長期租借という形で、米国による琉球諸島の軍事占領の継続を望む」という趣旨が記されている。だが、文書はスキャンされる際に歪み、文字を読み取ることはできない。そして、日常的に身に着けられる「Tシャツ」という装置自体も、両義性や矛盾をはらむ。「何が情報を歪め、読めなくしているのか?」という抑圧を可視化し、Tシャツを着ることで、「あなた」も異議申し立てのメッセージの主体になれるのだ、という変換と連帯への希求がここにある。一方、観光地の土産物の定番でもある「Tシャツ」は、そうした抵抗のメッセージすらたやすく「消費」されてしまう事態も示唆する。だがそのとき、「文字が読み取れないこと」は、消費への抵抗になりうるのか。こうした多層的に矛盾が絡み合った構造を通してしか、沖縄について語ることはできないという姿勢が、照屋の作品群を貫いている。

照屋勇賢《Magical spells》(2025)[筆者撮影]

★──沖縄県公文書館のウェブサイトに掲載。https://www.archives.pref.okinawa.jp/uscar_document/5392

鑑賞日:2026/06/14(日)

関連レビュー

布の翼|高嶋慈:artscapeレビュー(2022年06月15日号)
照屋勇賢《結い, You-I》──多次元の美の問いかけ「翁長直樹」|影山幸一:アート・アーカイブ探求(2018年03月15日号)