会期:2026/07/04~2026/09/13
会場:東京都庭園美術館[東京都]
公式サイト:https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/lucie-rie/

英国の陶芸家、ルーシー・リーの作品の魅力は、何といってもそのフォルムにあると思う。朝顔鉢ともいうべき大きく開いた見込みに対し、高台の径が比較的小さく高めで、やや危うさすら感じさせる緊張感を秘めているのに、絶妙な均衡を保ちながら凛と立っているからこそ美しいのである。さらに象徴ともいうべきターコイズブルーの青釉や、鮮やかなピンクの発色が唯一無二の個性となっている。今夏、昨年の国立工芸館に続いて、国内では約10年ぶりとなるルーシー・リーの回顧展が開かれた。国立工芸館に寄託された井内コレクションをはじめ、日本国内にある作品が一堂に会す場となり、それは非常に見応えのある展覧会であった。国内にこれだけの作品が所蔵されているのかという事実を知ると同時に、日本はやはり陶芸に関して造詣の深い国であることを思い知った。


ルーシー・リー《青釉鉢》(1980頃) 井内コレクション(国立工芸館寄託)[撮影:品野塁/画像提供:東京都庭園美術館]

したがって、これまでの展覧会や図録などで見覚えのある作品ももちろん多かったのだが、新たな発見もあり、それはそれで貴重な機会となった。というのも本展ではルーシー・リーの生涯に沿って、彼女と関わりのあった人物や出来事、時代観などをすくい上げ、併せて紹介していたのである。例えば、彼女がウィーンに生まれ、同国の工芸美術学校で陶芸を学んでいた時代に台頭していた「ウィーン工房」の解説や、その創設者のヨーゼフ・ホフマンをはじめとする作品の展示などである。


ルーシー・リー《熔岩釉鉢》(1980頃) 井内コレクション(国立工芸館寄託)[撮影:品野塁/画像提供:東京都庭園美術館]

なかでも興味深かったのは、ナチスからの迫害を逃れるためロンドンへ渡った際に出会ったという、バーナード・リーチとのエピソードである。当時、彼は英国陶芸界の中心的役割を担う存在で、ルーシー・リーが尊敬の念を込めて自分の作品を見せたところ、「陶磁器にしては素地が薄すぎるし、不健康すぎる」という酷評を受けたと伝えられている。それにショックを受けた彼女は、しばらく自身の作風に迷いが生じてしまったとされる。現にバーナード・リーチの作風に寄せた当時の作品も展示されていたのだが、それはまったくルーシー・リーらしくないもので、そんな作品を作っていたこともあったのかと驚いた。その後、彼女の工房に入ってきたハンス・コパーの影響によって、再び、独自の作風を模索していく。そんな人間くさい物語を知ることで、ますますルーシー・リーへの親しみが湧いたのだった。もし叶うなら私も欲しいと思う陶芸作品のひとつであるが、それは難しそうなので、またどこかの美術館で出合えることを楽しみにしている。


ルーシー・リー《マンガン釉線文鉢》(1970頃) 井内コレクション(国立工芸館寄託)[撮影:品野塁/画像提供:東京都庭園美術館]


ルーシー・リー《白釉ピンク線文鉢》(1984頃) 井内コレクション(国立工芸館寄託)[撮影:野村知也/画像提供:東京都庭園美術館]

鑑賞日:2026/07/25(土)