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学芸員レポート
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「いわて近代洋画100年」展/「アートするこころ 後藤克芳の世界」展
福島/福島県立美術館 伊藤匡
萬鉄五郎記念美術館
もりおか啄木・賢治青春館
石神の丘美術館
レストラン石神の丘
上から
萬鉄五郎記念美術館 展示室内
もりおか啄木・賢治青春館
石神の丘美術館 展示室内
レストラン石神の丘のデザート
 桜前線の北上とともに、東北地方の各美術館でも春の企画展が始まった。その中から岩手県内の三つの会場で開催されている「いわて近代洋画100年展」をリポートしたい。
 この展覧会は、明治初期から1970年代までの約100年間に活動した岩手県出身、ゆかりの洋画家75人の作品172点を集めている。会場は東和町の萬鉄五郎記念美術館、盛岡市のもりおか啄木・賢治青春館、岩手町の石神の丘美術館の三館。明治・大正、昭和前期、昭和後期の三期に分け、東和町が萬鉄五郎を中心に明治・大正期を、盛岡市が盛岡中学出身の松本竣介の関係で昭和前期を、そして岩手町では地元の沼宮内(ぬまくない)で戦後に生まれ現在も続いている美術団体<エコール・ド・エヌ>の活動を中心に、昭和後期の作品を展示している。
 こうした特異な歴史をもった岩手の洋画家といえば、まず頭に浮かぶのは萬鉄五郎と松本竣介である。二人とも大規模な回顧展が何度も開かれているが、彼らの作品を同郷の同世代という枠の中で見ると、また違う印象を受ける。松本竣介の風景画は、親交のあった高橋忠彌や沢田哲郎の作品と同質の雰囲気を感じた。三人の影響関係については知らないが、都会の孤独というべき竣介の情感は必ずしも竣介だけのものではないかもしれない。一方萬鉄五郎は、同郷、同世代の作家と並べても、共通点がほとんどみられず、彼の造形思考が独自のものという印象が、かえって深まる。
 意外な人の作品も見ることができる。プロレタリア美術の画家寺島貞志は夫人の郷里花巻への疎開、流浪の画家長谷川利行を紹介したことで知られる矢野芒土(文夫)は一関中学の卒業生、孔版画を制作した福井良之助は母親の郷里一関への疎開、というそれぞれの岩手県とのつながりで紹介されていた。
 また藤沼源三の《自画像》や萩原吉二の木版画など、初めて見る印象深い作品に出会えるのも、こうした展覧会の魅力だ。この展覧会の魅力をもう一つ上げると、美術館や博物館の所蔵作品は2割程しかなく、他の8割は個人や学校、自治体などの所蔵で通常は見る機会がない作品が多いことである。
 地域を限定した展覧会は地味と見られがちである。他県の人からは関心を持たれにくいし、特定の作家を除いては、地元の人の反応も期待するほどではないのが現実である。それでも、地域の美術の掘り起こしとその体系化は、美術館の重要な責務の一つである。それも学芸員の個人的な調査ではなく、館の事業としての継続的な調査、その成果の蓄積、次世代への継承が必要である。当然のことなのだが、その当然が実行されず、調査した学芸員の退職とともに、調査結果が引き継がれないということが、日本の美術館では往々にしてある。
 この展覧会ではその点を考慮している。調査結果を結実させるだけではなく、調査を若手の学芸員に引き継いでいくための実地訓練という側面もあるという。また三館共同開催によって、展覧会の規模を拡張し内容を深化させ、予算や人員不足を補い、マスコミへのアピール度を高め、県内の美術館同士の連携を具体的なものにすることなど、一石三鳥も四鳥もねらっている。企画者の平沢氏からは、この展覧会の収支を黒字にしたいという発言も飛び出した。こうしてみると、一見地味な展覧会だが実は戦略的である。
 3会場間の距離はそれぞれ約40キロ。頑張れば1日で回ることも可能だが、できればその土地の光や空気を感じるゆとりをもって見に行きたい。周辺には見所も多い。東和町には成島の兜跋(とばつ)毘沙門天立像(国重文)がある。平安時代造立の一木造り。高さ4.8メートルもあり、東京に出開帳されることはまずないだろうから、拝観するには東和町まで行かなければならない。萬記念美術館から車で10分走ると宮沢賢治の記念館もある。もりおか啄木・賢治青春館は、建物自体が明治の洋風建築(国重文)。辰野金吾設計の洋風建築旧盛岡銀行本店(国重文)も目と鼻の先にあり、こちらは今でも銀行の支店として営業している。石神の丘美術館の裏山は彫刻公園で、岩手山や姫神山の雄大な眺望が楽しめる。美術館に隣接するレストランでは、企画展にあわせてオリジナルデザートを創作した。雑穀と黒豆のアイスクリームで、私も食べてみたが、優しい味で甘すぎず、おいしかった。
後藤克芳展
後藤克芳展から
 山形美術館で、ポップ・アーティスト後藤克芳(ごとう かつよし 1936―2000)の回顧展が開かれている。後藤は山形県米沢市の出身で、武蔵野美大時代に篠原有司男、荒川修作らと交友し、「ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ」とも関わりがあった作家である。28歳で渡米して、皿洗い、雑役夫、大工見習い、ペンキ職人、店員、ガイド、バイヤー、ファッション・コンサルタント、ライター、アート・ディレクターなど様々な職業につきながら、ニューヨークで制作を続けた。
 1960年代のニューヨークに飛び込んだ後藤は、ポップ・アートの洗礼を受けた。そして日常的な商品や身近な道具、それに人体の一部、とくに男性性器などを、多くは実物よりずっと大きな立体、または半立体作品にしている。なかでも目につくのはハンマー、レンチ、十徳ナイフ、植木ばさみなどの道具類である。しかし、多くのポップアーティストに見られるような、物に対する冷めた視線や消費文明への批評的な意識は、後藤には感じられない。むしろ、子供が鉄釘とか石ころを拾ってきて自分の宝物とするような、物自体への愛着の方が強く感じられる。後藤の物への視線は、子供のように純粋で熱い。
 後藤は物の金属的な光や錆の具合など、質感までリアルに再現しているが、その素材はすべて木である。仕上げは非常にていねいで、一見すると木製とは思えないほどである。それでは別に木でなくてもよいのでは、という疑問も出かねないが、作品を見ると後藤にとっての素材は木でなければならなかったということも了解できる。完成度の高さに職人的なこだわりをもった後藤にとって、慣れ親しんだ素材である必要があったのだろう。
 今回の回顧展では、後藤が個展開催の希望をを果たすことなく亡くなったため夫人がその遺志を継ぎ、作品をアメリカから持ち帰って郷里米沢市の上杉博物館に寄贈したものを中心に90点が展示されている。昨夏上杉博物館で開催されたときには、作品の物量が多いために「所狭し」という印象があったが、山形美術館の展示室ではそれも解消され、見やすい展示になっている。

会期と内容
「いわて近代洋画100年展」
会期:2005年4月23日(土)〜7月3日(日)
「受容から個性へ(明治・大正)」
会場:萬鉄五郎記念美術館
岩手県和賀郡東和町土沢5区135 Tel. 0198-42-4405
休館日:月曜日
開館時間:9:00〜17:00
観覧料 :一般600円 高・大学生500円 小・中学生200円

「躍動と戦争(昭和前期)」
会場:もりおか啄木・賢治青春館 
岩手県盛岡市中ノ橋通1-1-25 Tel. 019-604-8900
開館時間:10:00〜18:00
休館日:毎月第2火曜日
観覧料:高校生以上500円 中学生以下無料

「再出発と興隆(昭和後期)」
会場:石神の丘美術館
岩手県岩手郡岩手町五日市10-121-21 Tel. 0195-62-1453
開館時間:9:00〜17:00
休館日:会期中無休
観覧料:高校生以上500円 中学生以下無料
※三館共通券:1,000円
●「アートするこころ 後藤克芳の世界」
会期:2005年5月25日(水)〜6月26日(日)
会場:山形美術館
山形市大手町1-63 Tel 023-622-3090
休館日:月曜日
開館時間:10:00〜17:00
観覧料:一般800円 高・大学生 500円 小・中学生 300円
※巡回先
会期:2005年8月17日(水)〜9月11日(日)
会場:刈谷市美術館
愛知県刈谷市住吉町4丁目5番地 Tel 0566-23-1636
休館日:月曜日 祝日の翌日
観覧料:無料 

[いとう きょう]
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