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学芸員レポート
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「サイト・グラフィックス」/「色調補正」/「アルテ・ポーヴェラ/貧しい芸術」展
東京/NTTインターコミュニケーション・センター(ICC) 住友文彦
 特定のテーマによって作品を集めた企画展は、作品鑑賞に特定の見方を強いることも多いのだが、学芸員がひとつの傾向を指し示すことで批評的なメッセージを発することもある。こういう仕事をしている以上はやはり見ておかないと、ということで、会期終了も間際に「サイト・グラフィックス――風景写真の変貌」展を見に行った。ちなみに、この展覧会については、すでにブログや雑誌記事などで、会場になっている川崎市民ミュージアムの運営に対しての厳しい評価や、同時開催されていた「CLAMP」展のようなマンガ制作集団の展覧会が多数の観客を集めていることを一緒に指摘するレヴューが多くでている。もちろん、同館の広報や立地条件などには問題点も多いが、美術館が果たすべき役割のうち「保存」という観点から考えれば、通常は消費されていくような複製芸術を収集する同館の設立意義は大きいし、一見関係ないもの(シリアスな企画展と大衆的な人気を持つマンガ)が並置されてしまう場であるという特徴は美術館の興味深い機能ですらある。日本の美術館は危機的な状況にある認識が浸透していくなかで、改善すべきことはどんどん変わっていけばいいが、これまでの活動を評価する声や美術館とは本来どういうものであるべきかという理念はなかなか聞こえてこない気がする。
 さて展覧会だが、すでに昨年の「学芸員レポート」で川崎市民ミュージアム学芸員の深川雅文氏が企画意図を述べているのでこのウェブサイトの利用者にはご存じの方も多いと思う。そこから引用すれば、「歴史性から脱却した『場所』の概念」とあり、「周囲との関連やなんらかの関心によって区切られた『相対的な場』」(「photo-eyes」内深川氏のサイトグラフィックスに関するlogからの引用)を映しだす作品を集めたということである。写真作品を多く見ているわけではないので、こうした特徴を持つ作品が目立つのかどうか分からないが、非常に興味深い問題設定であったし、作品も面白かった。とくに建物の没個性的な一角を撮影し、それをヴェクトル・データとして再構成する片山博文の《vectorscape》は、どこにでもある平凡さを纏いながらもまったくノイズが入り込まない無菌室的なイメージが不気味にみえて印象に残る作品である。
ルイス・ボルツやベルント&ヒラ・ベッヒャーなどが含まれる「ニュー・トポグラフィックス」と呼ばれる類の写真を、美しい光景として再現される「風景」や記憶などがまとわりつく場所性から逃れえた「冷たい」写真であっても「黙示録的」であるがゆえに歴史と触れあうとし、いっぽうで「サイト・グラフィックス」の作家たちをその後に訪れたポスト・ヒストリカルの時代に顕著な特徴として位置づけている企画意図には考えさせられるものがある。それは、深川氏が述べるように歴史や国家といった理念が消滅した(かのような)現代に、私たちがどこに身を置こうとしているのかという昨今繰り返されている議論と接点を持つからであろう。同じ問題意識から出発していると思われる「関係性の美学」(ニコラ・ブリオーによってピエール・ユイグやリクリット・ティラヴァーニャなどの作品を語るうえで持ち出された用語)が、領域横断的に雑多なものを取り込みつつ不可視化されている社会的なつながり/断絶を提示するのに対し、「サイト・グラフィックス」の写真があらゆる痕跡を丁寧に排除し清潔さに溢れているのはなぜなのだろうか。両者はともに、視覚や認識の制度が成立している条件をいったん括弧に入れる手つきも似ているし、興味深い対比のように思えた。
 思わず文が長くなりなりそうなので、目先を変えるが、府中市美術館の公開制作として行なわれた豊島康子の「色調補正」(2005年3月12日〜4月17日)は、私たちの終わりない知覚の持続性をずっしりと感じさせてくれた。201種類の色見本が壁に貼られ、暗室のような部屋を緑と赤のライトが一定間隔で交互に点滅する。そのなかで、その明かりに照らし出されることで微妙に変化する一つひとつの色見本を、ほかの色と対比させ、色相を調整していき塗り重ねていく作業を作家本人がただひたすら繰り返す。ほんの短時間滞在するだけでも、点滅する明かりと行き着く先のない作業には目眩をおぼえる。私たちは、すべてが流動化し、個人が依って立つ枠組みが消滅した、などと簡単に思っても、歴史や民族、そして個体差といったものからけっして逃れることはできず、こうした苦痛とも向き合う必要に迫られるにちがいない。
アルテ・ポーヴェラ もうひとつ、豊田市美術館の「アルテ・ポーヴェラ/貧しい芸術」展のカタログが興味深かった。なにを今更といわれるほどよく知られたアルテ・ポーヴェラだが、ミニマリズムやもの派などの美術史的な流れで同運動を確認するのではなく、未邦訳のG・チェラントによる文書を翻訳し、アメリカ中心の資本主義社会に対する抵抗としての同時代的性格を全面にだし、1968年当時の時代の空気とともにその意義を再認識させてくれる。ホワイトキューブにありがたそうに鎮座する「貧しい」作品が持つ意味を、今だからこそもう一度考え直してみたい気にさせてくれた。

会期と内容
サイト・グラフィックス
会場:川崎市民ミュージアム
神奈川県川崎市中原区等々力1-2(等々力緑地内) Tel. 044-754-4500
会期:2005年1月20日(金)〜4月17日(日)
「色調補正
会場:府中美術館
東京都府中市浅間町1-3 Tel. 03-5777-8600(ハローダイヤル)
会期:2005年3月12日(土)〜4月17日(日)
アルテ・ポーヴェラ/貧しい芸術
会場:豊田市美術館
愛知県豊田市小坂本町8丁目5番地1 Tel. 0565-34-6610
会期:3月19日(土)〜6月12日(日)
開館時間:10:00〜17:30(入場は17:00まで)
休館日:毎週月曜日(祝日は除く)

学芸員レポート
 NTTインターコミュニケーションセンターでは、新しい展覧会が始まった。「オープン・ネイチャー:情報としての自然が開くもの」というタイトルの企画展で、情報技術を介在させて自然をとらえることで、植物、身体、気象、宇宙などを任意の表現として再現するのではなく、鑑賞者自身や現在の社会と連続するものとしてみせてくれる作家が集まっている。交換や変換をしやすいものとして対象をとらえることを可能にするのが情報化である。その結果、これまで関係のなかったものが有機的なつながりをみせる驚きが生む。自然もまた、そのような対象となっているということに関心を寄せる作家たちは、もはやリサーチャーに近い。その、無限に広がる世界をとらえる独自の方法をみいだそうとする態度にぜひ触れていただきたい。
会期と内容
●「オープン・ネイチャー:情報としての自然が開くもの」
会期:2005年4月29日(金・祝)〜7月3日(日)
会場:
NTTインターコミュニケーションセンター
東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー4階 
Tel. フリーダイヤル 0120-144199
開館時間:10:00〜18:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日)
[すみとも ふみひこ]
札幌/鎌田享福島/伊藤匡東京/南雄介|東京/住友文彦|大阪/中井康之山口/阿部一直
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