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「日本の美術、世界の美術――この50年の歩み」展
東京/
国立新美術館準備室
南雄介
今回は東京都現代美術館の常設展示について。前回にひき続き、私の以前の職場の美術館についての紹介となるのだが、お許し願いたい。常設展示は、特別な広報がなされるでもなし、なかなか話題にされずにおわってしまいがちであるから、これはというときに機会をみつけて書いておかなくては、と思う。
実は私自身が、開館の1995年から昨年の4月に現在の職場である準備室に移るまで、途中の3年間を除いて、東京都現代美術館の常設展示を長らく担当していた。常設展示は、収蔵作品を並べる仕事である。収蔵作品についてはだいたい把握しているので、並べられるものも限られているしなあ、とは思っていたのだが、前回、今年の1月から3月にかけて行なわれた特別展示「アルス・ノーヴァ――現代美術と工芸のはざまに」に続いて、今回の通常ヴァージョンの常設展示も、とても新鮮でよかったのである。
「アルス・ノーヴァ――現代美術と工芸のはざまに」は、ゲスト・キュレーターに北澤憲昭氏を招いて、常設展示のうちの約半分を使って行なわれた特別展示で、一種のミニ企画展であった。とはいえ東京都現代美術館の常設展示室は全部で3000平米あって広いので、半分でもかなり見応えがあった。残念ながら参加はできなかったが、関連企画としてまるまる2日かけたシンポジウムも開催する、とても意欲的な試みであった。すっきりとした展示が印象的で、見なれたはずの展示室が新鮮に見えた。
それに続くのが今回の展示である。
東京都現代美術館は今年で開館10年を迎えている。この10年間でこの美術館をめぐる状況はずいぶん大きく変わったものだと思う。内部にいるときも、それは大きく感じていて、人に聞かれると、まるでジェットコースターに乗っているようだ、とよく話したものであった。10周年記念の展覧会も今秋企画されており、それは東京府美術館からの80年の歴史を検証・回顧するものになるようだが、美術館という制度が揺らいでいる現在のような時代に、そのような企画展が行なわれる意味はよくわかるし、とても必要なことだと思う。とくに、東京府美術館〜東京都美術館〜東京都現代美術館という流れは、よくもわるくも日本の近現代美術と歩みをともにしてきた美術館の姿を示していよう(およそ15年ほど前に私が東京都美術館に就職した頃、この美術館が日本の美術館の悪しき範例であることを、他館の先輩学芸員たちの口から、一度ならず聞かされたことを覚えている)。
ここに見られるのは、「見直し」という、すぐれて批評的な行為である。美術館の学芸員の職能には、歴史家の部分と批評家の部分が必要だと思うのだが、このような仕事の筋道にはとりわけそれを感じる。それはどこかで、東京藝術大学大学美術館とセゾン現代美術館との共同企画により2会場を用いて開かれた「再考――近代日本の絵画」展ともつながっているのではないかと思う。
さて、話が常設展示から逸れているように見えるかもしれないが、実はそうではない。というのは、企画展の場合ほどその意図が見易くはないものの、そこに流れているのは同じ、「見直し」という考え方なのだな、と、私は今回の常設展示を見て感じたからである。それでは何の「見直し」なのかというと、それは戦後美術史の見直しであり、そして美術館自体の常設展示の見直しである。
戦後美術史の見直しについて。たとえばそれは、アンフォルメルの位置づけに表われている。50年代絵画の総括ではなく、60年代美術の濫觴として、重要な役割が与えられているのを見ることができる。あるいは、50年代(具体と実験工房)や60年代(靉嘔とナムジュン・パイク)の実験的な作品群が、その結果的な意味ではなく、むしろ初発的な遊戯性においてとらえられていること。特に靉嘔の60年代のエンヴァイラメントの展示は、今回の常設の白眉であり、必見である。また、重要な収蔵作品・収蔵作家(山口長男と李禹煥)の新たな側面が引き出されていること。40年代の展示は、戦争を描いた橋本八百二の寄託を加えて厚みが増している。戦争画の絵葉書を展示するアイディアは、戦時下の生活も想像されて、秀逸である。こうして数え上げてみてわかるのは、いずれの展示も、館外からの借用や寄託がキーになっていることだろう。収蔵作品の調査に基いた、時間をかけた地道な美術館活動のたまものなのだと思う。
そして、戦後美術史の見直しは、そのまま常設展示の意味や機能の見直しにつながる。東京都現代美術館の常設展示は、戦後美術史を提示することをひとつの役割として引き受けており、それゆえ常設展示全体の枠組みもまた問い直されるからだ。
先ほども述べたように、常設展示は美術館の収蔵品を並べるものである。収蔵品は、長い年月と多くの人びとの力によって蓄積された、美術館の重要な資源である。収蔵品に新たな眼差しを注ぐことによって、この資源は豊かさを増すことになる。常設展示の不断の更新によって、この新たな豊かさは目に見えるものとなるだろう。
おそらくこの「見直し」は、開館10年を迎えたこの美術館全体のエートスとなっているのではないだろうか、とも思う。そしてそれは、「冬の時代」といわれ「逆境」といわれるなかで、美術館の蓄積を生かしその資源を富ませていく、大きな力となっていくのではないだろうか。
会期と内容
●「日本の美術、世界の美術――この50年の歩み」展
会場:
東京都現代美術館
常設展示室
東京都江東区三好4−1−1(木場公園内)
Tel. 03-5245-4111(代表)
会期
第1期:2005年4月16日(土)〜6月26日(日)
第2期:2005年6月28日(火)〜8月21日(日)
開館時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
休館日:月曜日(祝祭日の場合は開館し、翌日が休館)
[みなみ ゆうすけ]
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