小吹隆文/福住廉 |
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5/28-6/7 |
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シンポジウム「アフリカらしさとは何か?──アフリカ美術の今を探る」
5/28 六本木アカデミーヒルズ49 オーディオリウム[東京] |
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「アフリカ・リミックス展」の関連企画。出品作家2名のプレゼンテーションの後、同展キュレイターのシモン・ンジャミ、アフリカ同時代美術研究の川口幸也、同館館長のデビッド・エリオットによるディスカッションが、稲賀繁美の司会で行なわれた。
この類のシンポジウムは、えてして予定調和的になんとなく話がまとまって終わりというパターンが多いが、今回はその定式に依拠しながらも、パネラーの対立軸がはっきりしたせいか、わりと白熱した様相を呈していた。ヒール役を買って出た川口が、欧米のアートマーケットが「アフリカらしさ」を商品として搾取する権力構造はなにも変わっておらず、同展がいう「多様性」もその例外ではないと挑発したところ、ンジャミが「それは引用なのか、それとも分析なのか?」と川口に向かってすごむ一幕も見られ、一瞬会場に緊張感が走ったが、川口は「どんな展覧会にもいい面と悪い面がある」と言葉を濁してしまったため、残念ながらこの論点がそれ以上発展するには至らなかった。
たしかに沈黙の暗黒大陸として一方的に「分析」されてきたアフリカの多様な声に耳を傾けることは重要である。だが、その一方で、デヴィッド・エリオットが能天気に「多様性礼賛」を唱えるのには抵抗がある。アジア美術がそうであるように、多様性の全面的な賞揚は商品価値を保証する反面、それらにまつわる政治性を隠蔽してしまいがちだし、そもそも展覧会で何を賭けているのかという企画者側の意図が見えにくくなってしまうからだ。アフリカが多様なのは当たり前だし、そのことは日本だって変わらない。それらを展覧会という枠組みで見せるのであれば、問題はその多様性を「どのように見せたいか」「どのように見られたいのか」という点にある。「アフリカ・リミックス展」は個々の出品作品は見るべきものが多いといってもいいが、キュレイションの点では不明瞭であるといわざをえない。
もうひとつ、余計な点を付け加えておけば、今回のシンポジウムではパネラーの口から「検証する機会」という言葉が度々聞かれた。この展覧会をきっかけに「アフリカらしさ」を検証する議論をはじめてほしいという旨だが、こうした物言いにも注意が必要である。えてしてこの口当たりのいい言葉はその場しのぎに終始しがちであるし、その検証の成果が公表されたためしなど聞いたことがないからだ。本当に「検証」するつもりであれば、せいぜいシンポジウムを散発的に催して、その判断を鑑賞者に丸投げするのではなく、美術館が率先して検証のためのスキームを設け、研究者や在野の活動家、そして(いまや大量にあり余っている)大学院生や(もうすぐあまり余るはずの)団塊の世代などを巻き込みながら、持続的な検証機関を立ち上げればいいではないか。「フォーラムとしての美術館」は必ずしも金にならないわけではないのである。
[5月28日(日) 福住廉] |
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藤田嗣治展
5/30〜7/23 京都国立近代美術館[京都] |
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戦争画が目当てで会場に足を運んだが、他にも自分の知らない藤田嗣治が沢山あって、まるで大河小説を読了した気分になった。さまざまなスタイルの変遷は、表現者としての貪欲さか、異邦人ゆえの処世術か、はたまた圧倒的な時代のなせる業なのか? 結局の所私には分からないが、ひとつだけ了解したのは「この人はつくづく線の人だなあ」ということ。初期から晩年までほぼ途切れず続く線描へのこだわりに、彼のルーツである(はずの)日本美術とのつながりを感じずにいられなかった。
[5月31日(水) 小吹隆文] |
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画家泉茂の写真展
5/27〜6/25 滋賀県立近代美術館[滋賀] |
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版画家として知られる泉茂の写真作品を紹介していた。作品はいずれも1950年代後半〜60年代後半、彼がニューヨークとパリで生活していた頃のもの。特にニューヨーク時代の作品は、いわゆる写真家目線ではなく、色彩や構図の妙をスケッチするような感覚で捉えている所が面白い。一方、作品サイズ・点数と会場の広さのバランスが取れておらず、作品の並べ方にも一工夫欲しいと感じた。もう少し小さな会場で行なうべき企画ではなかったか。
[6月2日(金) 小吹隆文] |
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黒白ノート・箱 阿部淳写真展
6/3〜18 ギャラリー10:06(テンロク)[大阪] |
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会場には31個の箱が並んでいる。そのうち1個は空箱。観客は空箱を持って右隣の箱を開ける。中には写真作品が1点。それを空箱に移す。次の右隣の箱には作品が2点、その隣は3点、次は4点と1点ずつ作品が増えるが、それぞれ1点ずつ抜き出して、合計30点の写真をセレクトしたら終了という具合。結局観客は465点もの作品を目にし、観客であると同時に編集者、キュレーターの経験もすることになる。見る側・見られる側の目線、人は何を見ているのか等、様々なことを考えさせられる機会だった。ちなみに作品は、過去数十年の関西の風景や人物を撮った白黒のスナップショットばかりだった。
[6月3日(土) 小吹隆文] |
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中岡真珠美展
6/5〜10 Oギャラリーeyes[大阪] |
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日常でふと発見した風景を元に、さまざまな画材を用いて独特な空間性の抽象画を作り上げる若手画家。画面の多くを占める白場とキャンバスの地部分、そしてエナメル質の色彩が錯綜する複雑な空間に目を這わせていくと、視覚の迷路に迷い込んだ気分になってしまう。
[6月5日(月) 小吹隆文] |
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小林且典“静物”のシリーズより
6/6〜18 楓ギャラリー[大阪] |
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蝋型鋳造法でブロンズ彫刻を制作し、それをモチーフに写真作品も手掛ける小林且典。樹木やボトル、器などを造形したブロンズはいずれも小品で、会場では複数作品を組み合わせて静物画のように展示していた。非常に繊細で緻密な存在感を漂わせているが、同時に一陣の風の様な爽快さも併せ持っており、両要素の共存が作品に独特の魅力を与えている。鋳造の全工程を全て一人で行ない、写真も自作レンズを使用しプラチナプリントにするなど、技術面への深いこだわりにも驚かされた。
[6月7日(水) 小吹隆文] |
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