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プライバシーステートメント
展覧会レビュー
小吹隆文/福住廉
1/12〜1/13
美術百科「前衛の関西」の巻
前期=1/4〜2/18 和歌山県立近代美術館[和歌山]
美術百科「前衛の関西」の巻
「前衛」をキーワードに戦後関西美術史を概観する試み。出品作約250点はごく一部を除き館蔵品のみ。四耕会やパンリアルなど1950年代の運動から2000年代の作品までポイントを押さえており、コレクションの充実ぶりがうかがえた。1970年代までをカバーした1階に比べ、2階の80年代以降の展示がやや大味に思えたのが唯一残念。「反」の字を掲げた福岡道雄作品を会場入口に配して前衛精神をシンボリックに示したり、森村泰昌作品を使ったポスターが同時期に神戸で開催された《オルセー美術館展》のポスター(元ネタのマネ作品)に酷似していたりと、細かいくすぐりも効いていた。
[1月12日(金)小吹隆文]
Cityscape
1/12〜2/18 remo[大阪]
Cityscape
現代の都市風景をテーマにした映像の2人展。吉村亜也子は東京、ニューヨーク、上海など世界6都市の鳥瞰写真をつないだ《one place-a city》や、オランダの郊外住宅をモチーフにした《places-home》などを出品。Palla(河原和彦)は路地裏にありがちな建物の写真をコラージュした《found》シリーズを出品した。同じ都市風景を取り上げながら、フィールドワーク的視点に徹する吉村と、万華鏡的な多次元空間を創造するPalla。その対比が興味深く、映像作品の魅力と可能性を再認識した。
[1月12日(金)小吹隆文]
Chim↑Pom 参上!「スーパー☆ラット」展
12/8〜1/20 無人島プロダクション[東京]
Chim↑Pom 参上!「スーパー☆ラット」展
Chim↑Pom(チンポム)は20代の若者6人組によるアート・ソルジャー。彼らが路上でネズミを捕獲する様子を映した映像作品と、捕えたネズミをピカチュウとして加工した剥製などを展示している。タイトルが示唆しているように、この展覧会はツルピカの平面作品を生産するスーパーフラットにたいするカウンターパンチであり、もっといえば現在のアートシーンにたいして根源的なパラダイム・チェンジを迫る「挑戦状」を突きつけているとさえいえる。
スーパーラットとは、殺鼠剤が混入された餌を食するうちに、いつのまにか毒にたいする耐性を備えてしまったクマネズミのこと。山野型のドブネズミに代わり、最近の繁華街には必ずといっていいほどこの都市型のクマネズミがはびこっており、その被害は深刻だという。Chim↑Pomの面々はこのスーパーラットを捕獲するためにドンキで買った虫取り網を手に深夜の渋谷のセンター街に繰り出した。路上の傍らに積み上げられたゴミの山を蹴り上げると、そのなかからネズミの群れが蜘蛛の子のようにあふれ出てくる。目にも止まらぬ速さで街の隙間に逃げ込む無数のネズミを虫取り網ですくい上げようとするが、すぐれた運動能力と学習能力をもつスーパーラットはその網をかいくぐり、一度網の目に絡めとられたとしても、信じられないほどの跳躍力で脱出してしまう。この捕獲と逃走の攻防劇を映し出したDVD映像を見ると、それが若者による街の美化運動などというより、なによりもまずネズミを相手にしたバトルゲームに近いことがよくわかる。こうした都市空間における遊戯は、たしかにある一面では愚連隊の乱痴気騒ぎともいえるが、別の一面ではChim↑Pomとスーパーラットがそれぞれの「生」を極限まで燃焼させるという意味で、ある種の熱狂を帯びた享楽的な儀式でもあるのだ。
じっさい、Chim↑Pomが本展に寄せたステイトメントによれば、彼らの目的は害獣の「駆除」にあるのではない。「待て スーパーラット 僕たちは敵ではない Chim↑Pomだ!」と真摯に語りかけ
ているように、彼らにとってスーパーラットは嫌われながらも路上でたくましく生きる「同志」なのだ。だからピカチュウのように全身を黄色に脱色され、尻尾を稲妻のかたちに整形されたスーパーラットの剥製は、ネズミ(野蛮)にたいするヒト(文明)の勝利の証などではないし、あまつさえ都市の野性をポップに還元しようとする現代美術特有の「お作法」の産物であるわけでもない。それはむしろ毒性への抵抗力を高めるために身体をつくり変えながら生き延びている現代の若者の肖像なのだ。Chim↑Pomがやり遂げようとしたのは、スーパーラットのなかに見出したおのれの「生」と全身全霊をかけて契りを結ぶことであり、ピカチュウのような剥製はその儀式の帰結にほかならない。赤いほっぺのネズミのいとおしさは、いわば「愛」の結晶である。
もちろん、こうしたChim↑Pomの表現活動が都市のグラウンド・レヴェルから生じているという点でいえば、ホワイトキューブをあてにした美術作品にはない強度をもつ──だからといってグラフィティのように様式化されているわけでもない──ストリートのアートだとして評価することはできるし、都市のリアルな環境問題を提起するという意味でいえば、すぐれた社会的アートだともいえる。さらには、平等社会から格差社会への変容にともなって出現したフリーターを社会的背景としている点からいえば、従来のブルジョワ・アートにたいするネオ・プロレタリアートとして位置づけることもできなくはない。けれども、そうしたあとづけの意味づけや文脈化よりなにより重要なのは、彼らの表現活動の根幹には享楽的な精神があるということだ。現在の虚無にたいしてニヒリスティックに開き直るわけではなく、「私」を拠点にしながら「芸術」や「思想」に自閉して由とするのでもなく、虚無の只中にあって狂宴に興じながら社会性や公共性への遠心力を生み出していくこと。こうしたこうしたある種の「自家発電」がなければ、芸術だろうが芸能だろうが、どんなキャッチーなネーミングをつけたところで、貧しい時代をたくましく生きなければならないスーパーラット世代にとっては、意味がない。☆印に込められているのは、街のネズミたちとの追っかけっこからこぼれ落ちた、愛であり希望である。

[1月13日(土)福住廉]
Index
12/26〜1/9
日曜美術館30年展
中川雅文展
日下部一司展
戦争と芸術 美の恐怖と幻影
1/12〜1/13
美術百科「前衛の関西」の巻
Cityscape
Chim↑Pom 参上!「スーパー☆ラット」展
1/14〜1/16
京都御所障壁画 御常御殿 御学問所
臨界 〜たゆたう僕らは〜
夢の美術館 大阪コレクションズ
1/17
揺らぐ近代ー日本画と洋画のはざまに
城戸みゆき ひかりのさす箱
コミカル&シニカル 韓国と日本の現代写真/二人の女性のディレクターから見た一側面
太郎のなかの見知らぬ太郎へ
石山朔 o sole mio
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