
会期:2026/04/25〜2026/04/29
会場:舞台芸術公園 野外劇場「有度」[静岡県]
台本・演出:石神夏希
音楽:棚川寛子
公式サイト:https://festival-shizuoka.jp/program/eel-migration/
2026年4月25日(土)から5月6日(水)にかけて、SHIZUOKAせかい演劇祭2026が開催された。昨年、「ふじのくに⇄せかい演劇祭」から「SHIZUOKAせかい演劇祭」へと生まれ変わったこの演劇祭だが、今年からは劇作家の石神夏希がアーティスティック・ディレクターに就任。長年にわたる宮城聰SPAC芸術総監督による体制から変わりゆく過程にある演劇祭のプログラムは、これまで聞かれてこなかった声に改めて耳を傾けるような作品が並ぶものになった。掲げられたキャッチコピーは「『せかい』はあなたの隣に住んでいる。」だ。

「SHIZUOKAせかい演劇祭2026」フライヤー
さて、今回のプログラムを概観する前に石神の活動について触れておきたい。石神はすでに「SPAC秋のシーズン2025-2026」からアーティスティック・ディレクターとしてSPAC年間のプログラミングに携わっている。「きょうを生きるあなたとわたしのための演劇」というキャッチコピーを掲げた「SPAC秋のシーズン2025-2026」では「『物語を編み直す勇気』をくれる3つの演劇作品」ということで、自身の演出による『弱法師』(作:三島由紀夫)に加え、上田久美子の演出による『ハムレット』(作:ウィリアム・シェイクスピア)、多田淳之介の台本・演出による『ガリレオ~ENDLESS TURN~』(原作:ベルトルト・ブレヒト)が上演された。残念ながら私は『ガリレオ~ENDLESS TURN~』は観られなかったのだが、これらのプログラムは、現代を生きる私たちとは遠いものと見なされることも多い古典戯曲を、敷居が高いものとしてではなくもう少し身近な物語として上演し直す試みだったと言えるだろう。
石神はSPACではほかに『お艶の恋』(原作:谷崎潤一郎/2023)の演出も担当しているが、英語ではTheatre Makerを名乗るという石神の活動の中心にあるのはむしろ、その土地土地の人々と関係を結びながら展開するようなプロジェクトだ。さまざまな土地で展開する石神の活動の性質上、その全貌を把握するのはなかなか難しいのだが、石神が舞台芸術部門事業ディレクターを務めた「東アジア⽂化都市2019豊島」で上演されたOeshiki Project ツアーパフォーマンス《BEAT》(作:石神夏希、シャオクゥ×ツゥハン)は私のオールタイムベストに入る1本だった(ちなみにこのときの総合ディレクターは宮城、もうひとりの事業ディレクターは多田)。石神は静岡でも静岡市まちは劇場『きょうの演劇』(2021-23)や『かちかち山の台所』(ふじのくに⇄せかい演劇祭2024)といった、劇場で上演されるいわゆる演劇とは異なるタイプのプロジェクトを展開してきている。
[撮影:Suzuki Ryuichiro]
[撮影:Y.Inokuma]
SHIZUOKAせかい演劇祭2026で上演された『うなぎの回遊 Eel Migration』(台本・演出:石神夏希)は、静岡に暮らすブラジルにルーツを持つ人々とともに、1年以上にわたるリサーチや対話を、ワークインプログレスでの上演を通して作り上げられた作品だ。静岡の特産品であり、産卵のためにおよそ3000kmもの距離を旅するうなぎとその回遊=移住というモチーフをひとつの媒介に、エピソードの断片が連想ゲームのように連なっていく。断片的ながらも印象的なエピソードの多くは出演者らの実話と思われ、観客の目の前に立つ出演者の人となりに具体的な手触りを感じさせるものとなっていた。一方、ポルトガル語で海を意味するmarという単語がMariaというフィクショナルな存在を召喚するなど、ときにあからさまなフィクションへの飛翔は観客に「ここにはないもの」への想像力を要請する。「ルーツ」というのはいま目の前にいる人間に関わるものでありながら、同時に「ここにはないもの」についての話でもあるのだ。ルーツへの遡行はこれから何にでもなり得る「卵」のイメージへと至り、可能性に開かれた未来へのベクトルと重なり合うことになる。SPAC俳優(赤松直美、貴島豪、森山冬子、吉見亮)と並んで堂々と舞台に立ったチャーミングな「県民出演者」たち(相川アンジェラ、アイラ・ウェンディ、ペレイラ・ハセヤマ・クレイデ、矢野陽規)に拍手を送りたい。
[撮影:Y.Inokuma]
会場となった野外劇場「有度」が位置する静岡県舞台芸術公園の一角では「フェスティバルcafé & bar ― Festa Brasil(ブラジル・ナイト)」も開催(カフェプロデュース:スノドカフェ代表 柚木康裕)。メニューには劇中に登場し、舞台上で実際に調理もされていたキャロットケーキも並んでいた。キャロットケーキと聞いた私はシフォンケーキのようなものを想像していたのだが、チョコレートでコーティングされたそれは予想外にしっとりとして、ずっしりと甘かったのだった。
そういえば石神は『かちかち山の台所』でも食の体験を作品のなかに組み込んでいた。土地や人、あるいは記憶とも結びついた食べるという行為は、それを通して新たな土地や人、そして記憶の結びつきを生み出していくものでもあるだろう。
[撮影:Suzuki Ryuichiro]
『うなぎの回遊 Eel Migration』トレイラー
観賞日:2026/04/25(土)
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