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学芸員レポート
<新執筆陣>
札幌/鎌田享青森/立木祥一郎福島/伊藤匡東京/住友文彦|豊田/能勢陽子|大阪/中井康之
山口/阿部一直
<旧執筆陣>
札幌/吉崎元章福島/木戸英行東京/増田玲東京/南雄介神戸/木ノ下智恵子高松/毛利義嗣
福岡/川浪千鶴
「谷口吉生の美術館」/河原温「意識、瞑想、丘の上の目撃者」/「アルテポーヴェラ」/横浜アートトリエンナーレ
豊田/豊田市美術館 能勢陽子
2005年担当の企画および抱負
 昨年11月のMoMAリオープンに合わせ、建築デザイン部門のチーフキュレーター、テレンス・ライリーが企画した「谷口吉生の美術館(Nine Museums by Yoshio Taniguchi)」の巡回展を担当する(10/22-12/25、東京オペラシティアートギャラリー、丸亀市立猪熊弦一郎現代美術館の後当館に巡回)。谷口はMoMAの増改築を進めるにあたり、「たくさんお金を集めてください。そしたらよい建物を建てます。もっとたくさんお金を集めたら、私は建物を消してしまいましょう」と語ったという。その言葉通り、完成したMoMAは作品が際立つ静謐で洗練された空間となり、大きな賛辞を受けている。しかし二カ月経った現在、建築家のコンセプトが見えにくいという点で、否定的な意見もみられるようになってきた。しかしこれはもちろん、建築と建築家の関係についての必然的な問題である。建築家のコンセプトや造形性が際立つ建築か、環境との調和を目指す建築か。日本展では、MoMA新館に対するこうした賛否の批判をともに展示し、建築と建築家の作家性に対する問いを促す場ともしたいというのは、谷口氏よりの提案である。昨年に引き続き今年も「アーキラボ」(森美術館)、「アーキグラム」(水戸芸術館)、「妹島和世+西島立衛 SANAA(仮)」(金沢21世紀美術館)など、注目すべき建築展が続く。本展では、現在の建築の中での谷口の態度を、谷口自身が設計した美術館の中で、展示室の光の移り変わりや空間とともに感じていただければと思う。
 また2005年は開館10周年にあたる。河原温の「意識、瞑想、丘の上の目撃者」(1/8―2/27)に始まり、春には「アルテポーヴェラ」(3/19―6/12)と続く。河原温展は、イギリスのアイコン・ギャラリーから、東回りにヨーロッパ、アジア、中南米、アメリカと世界各地を旅する巡回展である。三つの言葉からなるこの不思議なタイトルは、二項対立的な構成にもうひとつ言葉が加わることで多焦点的になり、展覧会のパースペクティヴをぐっと押し広げるようである。広大な空間、そして過去から未来に至る膨大な時間の中で、いまここでの自己の立脚点を確かめ、自己の内省へと誘われる希有な機会となるだろう。「アルテポーヴェラ」は、当館のメルツ、クネリス、ゾリオ、ペノーネらのコレクションと連動した、当館ならではの展覧会となる。そしてその後も「ミロ、ダリ、ガウディ」(7/16―9/19)、「ヤノベケンジ(仮)」(6/24―10/2)と続く。10周年を迎えるにあたり、今後も当館の位置、特性などを活かした企画、活動を行なっていけたらと思う。
 
2005年の気になる展覧会、動向
 今年注目するのは、川俣正氏が急遽コミッショナーを務めることになった、第2回横浜トリエンナーレのゆくえである。当館でも1999年より「ワーク・イン・プログレス豊田」を展開しており、この近辺では川俣氏はちょっと馴染みの人でもある。川俣氏の「アートレス」は字義通りではなく、アート・プロジェクトとしての多様な可能性を含んだ言葉であると思うが、最近の活動においてますます無名性、日常性が強くなり、大文字のアートからどんどん遠ざかっていくかにみえる川俣氏が構成する国際展は、どんなものになるのだろう。おそらく一人のコミッショナーの統一された視点による大規模展ではなく、一時的な祝祭性を纏わない、地域の人々との関わりを重視した内容になるのだろう、テーマや出品作家が公表されていない現時点では明確なことはわからない。参加型のプロジェクトの場合、そこに関わった人々の生の体験に加え、その過程に加わらなかった第三者、純粋な鑑賞者にとっても、作品あるいはプロジェクトとして魅力的でなければならないことは、豊田でのプロジェクトにおいてもしばしば感じさせられることであった。今回のトリエンナーレ出品作家の多くが、地域との関わりを重視した作家であれば、参加型作品あるいはプロジェクトのクオリティの問題もまた出てくるだろう。その辺りをどう見せてくれるのか、また浮き上がってくるのか楽しみである。これまでの国際展になかったような新たな地平が生まれることを期待して、「ワーク・イン・プログレス豊田」一同で応援したい。
 また個人的に望む今後の美術動向としては、アートの加速度的な情報化・ファッション化の波がスローダウンして、より本質的な方向に向かえばと思う。集客とかイヴェント的な視点から一歩距離を置いて、アートとは何かとやはり考えたい。眼をじっくりと留めて鑑賞することが少なくなり、多くの作品をあっという間に消費してしまう状況に慣れてしまったのではないかとしばしば胸の痛みとともに感じる、自分自身への自戒の念とともに。

プロフィール
1996年より豊田市美術館学芸員。「ローマン・オパルカ」(1998年)、「川俣正 ワーク・イン・プログレス豊田」(1999年―)、「中原浩大」(2000年)、「曽根裕/タブルリバー島への旅」(2002年)などを担当。
[のせ ようこ]
<新執筆陣>
札幌/鎌田享青森/立木祥一郎福島/伊藤匡東京/住友文彦|豊田/能勢陽子|大阪/中井康之
山口/阿部一直
<旧執筆陣>
札幌/吉崎元章福島/木戸英行東京/増田玲東京/南雄介神戸/木ノ下智恵子高松/毛利義嗣
福岡/川浪千鶴
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