渡辺力――リビング・デザインの革新
渡辺力(1911―)は、1950年以降、家具やプロダクトで日本のモダン・デザインを代表する作品を発表し、戦後日本のデザイン運動を牽引してきたデザイナーの一人です。デザインという言葉が日本社会にいまだ十分に定着していなかった戦後間もない頃、いちはやく確固たる自覚と主張をもって登場してきました。
1930年代、モダン・デザインに触れた渡辺は、機能に裏打ちされ、かつ日本の生活に立脚したかたちを追究してきました。初期の《ヒモイス》(1952年)や、伝統的な素材である籐をデザインのプロセスで捉えなおした《トリイ・スツール》(1956年)は、日本のモダン・デザインを体現するものとして国内外で高く評価されています。
こうした実践に加え、日本インダストリアル・デザイナー協会(JIDA)や、手仕事の発掘と普及をめざしたクラフト・センター・ジャパンの設立、そのほか多くの批評活動をとおして、いまだ黎明期にあった日本のデザイン運動に方向を与えその発展に尽力したという点でも、重要な役割を果たしました。
本展は、およそ半世紀におよぶ渡辺力の活動の歩みを代表作で回顧する初めての展覧会です。機能と日常に対する透徹した意識、量産を前提とした合理精神がときに禁欲的なまでのフォルムに宿る渡辺のデザインをとおして、日本のモダン・デザインに胚胎した思想を探ります。
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