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写真/土屋誠一建築/五十嵐太郎メディア・アート/ドミニク・チェン|ダンス/木村覚|音楽/吉田寛アジア美術/中西多香映画/北小路隆志演劇/高取英ソフトウェア/須之内元洋アートマネージメント/原田真千子
「ダンス」をイノヴェートする力──2007年注目の4組+1
木村覚
 コンドルズ、康本雅子、珍しいキノコ舞踊団など一般的な人気を獲得し活躍の幅を広げる者も登場している日本のコンテンポラリー・ダンスの分野にあって、マイナーだが「ダンス」の概念をイノヴェートする力に満ちた4組とつねに新たな刺激を提供する1人のプロデューサーを紹介したい。

「薔薇の人」
イラスト:深津真也
チラシデザイン:菊地哲男
 昨秋、東京園という温泉の宴会場で「ダンス☆ショー」公演を成功させた黒沢美香は、80年代から独自の活動を続けるコンテンポラリー・ダンス界のゴッド・マザーであり、近年益々見過ごすことのできない特別な存在となっている。予測不能の妖怪少女が繰り出す不可解な一挙手一投足、それは濃厚なホラーであり、形骸化した「ダンスのようなもの」を瓦解させる濃密な時間であり、真にダンスと呼ぶべき純粋な何かが立ち現れる瞬間である。今年は公演の予定がすでに目白押し。スリルと失笑の交差する黒沢美香&ダンサーズのグループの公演(「なんという寛容な肉」)は7月に待っている。ただし、なんと言っても注目したいのは、黒沢のソロ・シリーズ「薔薇の人」の久々の新作(2月)である。タイトルは「登校」。チラシの絵はつぶらな瞳の制服小学生(男子)。こんな黒沢一流の謎めいたメッセージからすでに公演ははじまっているようだ。

 2000年以来「私的解剖実験」と称した身体に対する個性的で執念深いアプローチを続ける手塚夏子が、一体どんなチャレンジを見せてくれるのかには、今年も興味が尽きない。昨年は「表層から見た深層」という副題で、ありふれた会話の瞬間を1/2倍速にし、スローな映像をダンサーの身体がきわめて緻密にトレースするという作品を披露した。実験の濃度が濃すぎるきらいはあったにせよ、そのオリジナルな発想と過酷なまでに映像に羽交い締めにされた身体が露出させた空っぽの状態は、ダンスの新しい可能性に手をかけた瞬間だったのかも、と思う。そこから一体何が生まれるのかはいまだまったくの未知数だ、だからこそ見ないわけにはいかない。3月の「プライベートトレース/サンプル」では、チェルフィッチュで活躍する山縣太一にあらためてトレースのタスクを課すだけではなく、手塚本人がこのトレースを行なうというので、是非注目したい。

ピンクの公演
ピンクの公演
撮影=NEAT
 次に2組の新人を紹介。神村恵は、昨夏、種子田郷(音楽)と共演した公演「うろ」で評価を決定的なものにしたソロの振付家・ダンサー。派手さはない。Tシャツにジーンズで、身体が動くべき瞬間を執拗に待ち方向を定める。その姿勢は知的だが、観念遊戯の振る舞いとは無縁でむしろ恐ろしくフィジカルな面に集中した「不均衡」な時間を生成し続ける。動きの規則に向けた観客の読み取りが裏切られるとき、黒沢美香に比肩するほどのホラーがにわかに展開しはじめる。その一層の深化に期待せずにはいられない。昨年から神村恵カンパニー名義でのグループ公演もはじめた。2月初頭に新作「山脈」を披露する。乙女系3人組、ピンク(磯島未来、加藤若菜、須加めぐみ)の今年の活躍にも期待。等身大の若いからだがどうしたって目につくために、神村のストイシズムと対極に位置するようにも見えるが、いや、安易な観客迎合の素振りは決して見せない。「ダンサーズ」の一員でもある彼女たちが漂わせる黒沢美香譲りのふてぶてしさには、「ツンデレ」とか「萌え」とかある傾向の語彙を呼び込む要素がありつつ、と同時にそれらをさらに蹴散らす奔放さとしたたかさをも具えている。公演の最後に観客の前で衣裳替えしてスクール・メイツよろしく踊るなんて振る舞いは、若さ故の暴挙だが、若いのでそれをやるって図々しさ、それに思わず圧倒されてしまうのだ。

チェルフィッチュ
チェルフィッチュの公演
撮影=飯田研紀
 最後に、プロデューサーを1人。チェルフィッチュ、ニブロール、ほうほう堂、吾妻橋ダンスクロッシングなど、近年話題を呼ぶ公演には、ひとつの共通点がある。Precog(プリコグ。「予知能力者」の意)が制作に携わっているということだ。小沢康夫を中心とするプロダクション・Precogは、「ALIVE ART MATSURI」「Postmainstream Performing Arts Festival 2006」等のイベントの企画を含め、いまやコンテンポラリー・ダンスやパフォーマンス・アート分野のなかでいわば最重要の「レーベル」と言って間違いはない。その特徴は、上記したような旬なパフォーマーや吾妻橋のようなアイディアを発掘・フォローする的確な鑑識眼のみならず、既成の劇場のもつ空間性を疑い公演会場にクラブやラウンジあるいは劇場のロビーなどを積極的に選択してきたラディカルな姿勢にある。例えば、昨年のチェルフィッチュ『三月の5日間』の会場が六本木のフラットなラウンジ、Super Deluxeだったことは記憶に新しい。さらに宇治野宗輝、川口隆夫、山川冬樹の公演をプロデュースするなど既成のジャンル概念から自由に、オルナタティヴなものへ向けてひたすら貪欲にターゲットを絞っていく真摯さもいまの舞台芸術の分野において異彩を放っている。「レーベル買い」のようにチラシの「Precog」のマークをチェックしながら会場に足を運び続ければ、日本における身体表現の新しい輪郭が次第に像を結んでくるに違いない。

木村覚
1971年生。美学、ダンス批評。『美術手帖』『ELLEJAPON』『TVBROS』でのダンス特集の構成、インタビュー、批評文等を担当。論文=「踊ることと見えること 土方巽の舞踏論をめぐって」。
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