最後に、プロデューサーを1人。チェルフィッチュ、ニブロール、ほうほう堂、吾妻橋ダンスクロッシングなど、近年話題を呼ぶ公演には、ひとつの共通点がある。Precog(プリコグ。「予知能力者」の意)が制作に携わっているということだ。小沢康夫を中心とするプロダクション・Precogは、「ALIVE ART MATSURI」「Postmainstream Performing Arts Festival 2006」等のイベントの企画を含め、いまやコンテンポラリー・ダンスやパフォーマンス・アート分野のなかでいわば最重要の「レーベル」と言って間違いはない。その特徴は、上記したような旬なパフォーマーや吾妻橋のようなアイディアを発掘・フォローする的確な鑑識眼のみならず、既成の劇場のもつ空間性を疑い公演会場にクラブやラウンジあるいは劇場のロビーなどを積極的に選択してきたラディカルな姿勢にある。例えば、昨年のチェルフィッチュ『三月の5日間』の会場が六本木のフラットなラウンジ、Super Deluxeだったことは記憶に新しい。さらに宇治野宗輝、川口隆夫、山川冬樹の公演をプロデュースするなど既成のジャンル概念から自由に、オルナタティヴなものへ向けてひたすら貪欲にターゲットを絞っていく真摯さもいまの舞台芸術の分野において異彩を放っている。「レーベル買い」のようにチラシの「Precog」のマークをチェックしながら会場に足を運び続ければ、日本における身体表現の新しい輪郭が次第に像を結んでくるに違いない。