小吹隆文/福住廉 |
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6/27〜7/9 |
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生誕百年 山川惣治 展 ─戦後日本を勇気づけた「少年ケニヤ」─
4/3〜6/29 弥生美術館[東京] |
「少年王者」や「少年ケニヤ」で知られる山川惣治の大々的な回顧展。紙芝居などの初期秀作から戦中の愛国的な挿絵、そして戦後の絵物語の勃興と衰退、晩年にたしなんだ絵にいたるまで、山川の創作活動の全体をじつに丁寧に紹介する展示になっていた。ほぼ同時代人の小松崎茂と同様、その絵はノスタルジーの魅力に満ち溢れているが、山川の画業の変遷をじっくり見ていくうちに気づかされるのは、絵物語という特異なジャンルが紙芝居の発展形として形成された経緯だ。文字と絵に同じ比重が置かれている絵物語は、少年向けの雑誌において小説の挿絵としてしかなかった絵を文字と同じ程度まで引き上げる役割を果たし、同時に簡素な記号によって成り立っていた戦前のマンガと細部を緻密に描き込んだ戦後の劇画をつなぐ蝶番でもあった。小説やマンガ、アートやデザインといった諸ジャンルが戦後社会のなかでいちおうの成熟を迎え、いまや交互に融合しつつある現在、文字表現とヴィジュアル表現をそれぞれ同時に成し遂げる山川のような手わざを、たんなる懐古的な視点によってとらえるのでは、あまりにももったいない。その両棲類的な技術は、いまもっともアクチュアルなテクノロジーとして評価しなおすべきではないだろうか。
[6月27日(金) 福住廉] |
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塩田千春 精神の呼吸
7/1〜9/15 国立国際美術館[大阪] |
公募で集められた2000足以上の靴を赤い糸で結び、壁面の一点へと収束させる《大陸を越えて》。展示室一室を丸々用い、黒い糸を繭のように張り巡らせ、20台のベッドとともにインスタレーションに仕上げた《眠っている間に》。2001年の「横浜トリエンナーレ」に出品された巨大なドレスの作品から3点のドレスを用いて再構成された《After That─皮膚からの記憶》。これらの超大作を中心に、立体、写真、映像など計14点が出品された。業やしがらみなど、逃れられない宿命を色濃く感じさせつつも、人間同士の繋がりや母性といった温かみも併せ持つ作品は、その両義性ゆえに深い魅力を備えてる。それにしても凄まじいまでの切迫感。観客にも安易な態度を許さない異様なテンションが場を支配している。鑑賞というよりは、得体の知れない災厄に巻き込まれたような展覧会だった。
[7月1日(火) 小吹隆文] |
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横濱モボ・モガを探せ!
6/17〜7/22 桜木町ぴおシティ 地下2階ギャラリー[神奈川] |
横浜市を中心とした市民に、横濱モボ・モガを写した写真を募り、提供された数十枚の写真を見せた展覧会。面白いのは、それらの写真をひとつひとつ審美的に鑑賞することではなく、むしろ展覧会をきっかけに埋もれていた写真がひとつの場に集結し、過去の時間が甦るかのような空間が出現したことにある。市民が参加できる間口が広く、しかもアートだけにとどまることなく、民俗学や歴史学、都市人類学といった多様な関心にも開かれた稀有な展覧会だ。
[7月2日(水) 福住廉] |
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アートでかけ橋 小沢剛/セリーナ・オウ/パラモデル
7/10〜9/7 アサヒビール大山崎山荘美術館、ほか[京都] |
タイトルに「かけ橋」とある通り、美術作品を通して美術館、アーティスト、地域住民、観客が共感を深め合うことをテーマとする本展。作品制作には地元住民の起用やワークショップが行なわれ、会場も美術館のほか、地域の神社や公民館、集会所が用いられた。小沢剛は離宮八幡宮と美術館を会場に、大山崎町で出会った人をモデルにした《ベジタブル・ウェポン》の新作ほかを出品。セリーナ・オウは大山崎町の住人や労働者を真正面から撮った、アウグスト・ザンダーの21世紀版ともいうべき写真作品を区民会館と美術館で発表した。パラモデルは、メンバーの林と中野がそれぞれ作品を制作。林はビールケースを用いた巨大な立体と、木材やパイプなどを用いた公開制作のインスタレーションを集会所で、中野は地元の小学生とのワークショップで作られた絵画作品などを美術館内で展示した。作品はいずれも質が高く、会場を巡るうちに大山崎町の歴史や景観とも触れ合えたので、本展の企画意図は観客にも十分伝わるだろう。欲を言えば、地元住民との交流過程のドキュメントを見られるようにしてほしかった。当事者の目線で追体験できれば、更なる感動を得られるのではないか。
[7月9日(水) 小吹隆文] |
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