フォーカス

5人のアーティストの他生物との暮らし

今井俊介/AKI INOMATA/三原聡一郎/山本愛子/志村信裕

2021年12月15日号

地方や海外の美術館などでの展示設営や滞在制作から、アーティストは旅が多いと想像しがちです。そんな印象からartscapeでは過去に「12人の移動するアーティスト」(2017年01月15日号)という記事を組んだこともありました。しかし、新型コロナのパンデミックが続くなか、アーティストもまた移動がままならない時間を重ねています。そんななかで積極的にステイホームしている、ステイホームしなければいけない理由があるアーティストもいることに気がつきました。自宅で生きものを飼育、栽培、培養しているアーティストです。
私たちは「ウィズコロナ」と言われる前から、言葉の通じない、感情や思考方法が抜本的に異なる他生物と生活をともにしてきています。生きものを飼ったり育てたりすることは、彼らを人間社会のルールに従わせることなのでしょうか。
今回、さまざまな生きものとともに暮らすアーティストの方々にアンケートをお願いしました。その回答には、人間相手では得られないコミュニケーションや想像力、他生物が導いてくれる生活と作品制作のあり方を発見することができました。(artscape編集部)

質問事項

1. 何を飼って(育てて)いますか?
2. いつから、なぜ飼い(育て)始めましたか?
3. 餌は何ですか? どうやって調達していますか?
4. 日々のケアで気をつけていることは何ですか?
5. その生物が嬉しそうにしているときはどんなときですか?
6. 悲しそうにしているときはどんなときですか?
7. その生物とあなた(人間として、あるいは作家として)とはどんな関係でしょうか?

執筆者

今井俊介AKI INOMATA三原聡一郎山本愛子志村信裕



今井俊介......爬虫類


ライボ(ツナギトゲオイグアナ)


1. 何を飼って(育てて)いますか?

爬虫類をいろいろと飼育しています。特にSNSへの登場頻度が高いのは中米原産のツナギトゲオイグアナのライボ(通称ライ様)でしょうか。メスの梅子とのペアで繁殖にも成功し、卵の状態から育てられたのはなかなかすごい経験をしていると思います。最近はタンクブロメリアと呼ばれる植物にも手を出したりしてます。


2. いつから、なぜ飼い(育て)始めましたか?

トカゲを飼い始めたのは5年近く前です。高校生の時にロシアリクガメを飼い始めて、一緒に東京に出てきました。ほかにもいろいろな動物と暮らしていて、それらが亡くなって数年経った頃、また何か飼いたいなと思って爬虫類ショップに遊びに行ったのがきっかけです。


3. 餌は何ですか? どうやって調達していますか?

基本的には草食寄りの雑食なので葉野菜や人工飼料を与えています。野菜の値段に敏感になりましたね(笑)。初夏くらいからは藪蚊と闘いながら野草を摘んできたりもします。オヤツ程度にコオロギなどの動物性タンパク質も与えてます。


4. 日々のケアで気をつけていることは何ですか?

温度管理と紫外線浴がメインでしょうか。爬虫類は変温動物なので、室温を上げたりバスキングライトという熱の出る電球を使ったりといった、外的な要因で温めてあげないと活動できません。でも、ただ暖かくしておくわけではなく、昼夜の温度差にメリハリをつけて夜は代謝を下げたりします。夜も代謝が下がらない状態が続くと、寿命にも影響してくるようです。紫外線に関してはUV灯もありますが、やはり太陽の力は偉大だなと思うので、制作の合間に一緒に日向ぼっこしたりしています。そういう時間をもつと美術のことを考えなくなったりして、飼い主のケアという意味でも大切なのかなと思ったりもします。


5. その生物が嬉しそうにしているときはどんなときですか?

たまに与える虫やバナナを見たときのソワソワした感じとかは嬉しそうに見えます。爬虫類に表情はないけど、やはり見てるとなんとなく気持ちが分かるような気になってしまいます(笑)。


6. 悲しそうにしているときはどんなときですか?

給餌日じゃない日の餌くれアピールが不発に終わったときとかは悲しいのかな? でもあんまりわからないです。喜怒哀楽のなかでは怒だけがものすごくわかりやすいです。ライボは縄張り意識が強く、人に対してはフレンドリーなのですが、同種に対しては体を最大限に膨らませながらボビングという頭を上下に振る威嚇行動をします。雌雄で体格差もあるので間違えば噛み殺されてしまうかもしれないというくらい怖いです。ただ繁殖のシーズンになると2ヶ月ほどは怒りもせず一緒にのんびり過ごしています。そのあたりは本当に勝手なやつだなぁと思ってしまいますね。


7. その生物とあなた(人として、あるいは作家として)とはどんな関係でしょうか?

哺乳類とかと違って付かず離れずな距離感がちょうど良い関係ですね。基本的に馴れ合う生き物ではないですし。ボーッと眺めてるだけで、あっという間に時間が過ぎてしまいます。日々眺めてるとちょっとした変化が目について、彼らの不調に気づくこともあります。それって観察力を養うのにも役立ってるのかな? と思ったり。

スタジオで制作中にトカゲ部屋からガサゴソと動いている音が聞こえたりするとひとりじゃないなーって思ったりするんですよね。画家って基本的に孤独じゃないですか。心折れそうになることもあったりするけど、彼らの存在を感じるというのがとても大切なのかもなと思います。彼らは世話をする人がいないと生きていくことができないわけで、ヤモリとかの小さいものまで含めると40匹ほどを世話して食わせていくためにも、制作頑張るかーとやる気も出ます。みんな僕にとってとても大切な仲間だったり家族だったりするんだろうなと思います。




《untitled》(2017) acrylic on canvas 144 x 385 cm


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作家ウェブサイト

https://imsn.info/



AKI INOMATA……ミノムシ


生後11日目のミノムシ


1. 何を飼って(育てて)いますか?

ミノムシ(ほかにもヤドカリなどいろいろと育てています)


2. いつから、なぜ飼い(育て)始めましたか?

2012年、2019年、そしていま(2021年)も飼育しています。

ミノムシに服地を小さく切ったものを与え、ミノムシ自身によって蓑をつくってもらうプロジェクトのために飼育を始めました。これは、日本に古くからある子供の遊び──切った色紙を渡してミノムシに蓑をつくらせる──を下敷きにしています。ミノムシは口から吐いた細い糸で服地をかがりつけるようにして蓑をつくっていきます。凄いテクニックだと、いつも感嘆します。

3. 餌は何ですか? どうやって調達していますか?

果樹なら、おおよそ何でも食べるミノムシですが、最初に食べた種の木の葉を、その後も食べ続ける習性があります。そのため、最初に与えた樹種の葉を与え続けなくてはなりません。私の場合は、ミノムシの餌のために数本の柿の苗木を育てていて、それを与えています。食欲はかなり旺盛です。餌である葉を切らせてしまわないよう、補充しています。


4. 日々のケアで気をつけていることは何ですか?

生まれたてのミノムシたちは、ふわふわと糸をつかって宙を舞い、世話をするのが難しいのですが、柔らかい筆を使って、新しい餌の葉へと移動させています。小さな水溜りでも溺れてしまうことがあるので、水に浸からないように気をつけています。


5. その生物が嬉しそうにしているときはどんなときですか?
6. 悲しそうにしているときはどんなときですか?

嬉しい・悲しい、といった人間の感情と、同じような気持ちをミノムシが持っているかどうか。彼らは私たちとはまったく異なった世界を生きていると想像します。

しかし、私たちと重なる部分もあります。例えば、雨の日は蓑に籠もって、じっとしていることが多く、晴れた日は、葉を食べ、枝を伝って移動するなど、活発に行動します。

ミノムシが、自らのつくった蓑を背負いながら、その小さな脚を器用に動かしてせっせと枝を登っていくところは、その巧さに清々しささえ感じ、いつまでも観続けてしまいます。

なお、ミノムシが壁面などを登る際にはハシゴ状の足場をつくるのですが、それも非常に興味深い行動だと思います★1

7. その生物とあなた(人として、あるいは作家として)とはどんな関係でしょうか?

観察する/される者であり、co-creation(協働ではなく共創)のパートナーでもあります。ミノムシの生態には人間と通じる部分がある一方で、つねに人間とまったく異なる他者性をまざまざと感じます。そうした関係のなかで共創することで、多角的な“気づき”を得ています。



《girl, girl, girl ...》(2012/2019)、 インクジェットプリント、290×435mm×2点組[モデル撮影協力:Eisuke Asaoka]



★1──論文「ミノムシの運動のためのはしご状足場に関する研究」https://www.nature.com/articles/s41598-021-95809-7


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作家ウェブサイト

https://www.aki-inomata.com/



三原聡一郎......苔・好気性微生物・嫌気性微生物


左から、苔、好気性微生物(コンポスト)、嫌気性微生物(発電菌=微生物燃料電池)


1. 何を飼って(育てて)いますか?

苔と好気性微生物(コンポスト)と嫌気性微生物(発電菌)です。


2. いつから、なぜ飼い(育て)始めましたか?

2011年の東日本大震災後をきっかけに自宅でオフグリッド実験を小規模に始めました。最初、コンポスト(堆肥)はトイレのオルタナティブとして、苔と嫌気性微生物(微生物燃料電池)は共生させての発電システムとしてでした。コンポストはバケツに落ち葉、苔は最初は山に取りに行ってましたが、面倒くさくなったので、自宅で培養しています。微生物燃料電池は、これまでカーボンなどの電極素材と土や砂で自作しています。最初は海岸の砂を試していましたが、最近はコンポストで実験しています。


3. 餌は何ですか? どうやって調達していますか?

苔は空気中の湿度を全身で吸収して生きています。乾物を入れる透過性の密閉容器に、ミキサーをかけ水分を含ませた布地をいれ、それを培養床にして放置していてます。微生物たちはどれも有機物を食べるのですが、コンポストは人間の炊事から出てくる有機物はほぼ何でも食べます。微生物燃料電池は発電菌という種で、最終的には有機酸という物質を摂取するのですが、こちらはお酢や分解の進んだコンポストを入れてます。どちらもエサを買うという意識はなく、自分たちが食べるものと同じで、その領域やプロセスの段階が違うだけなので、家族っぽいです。


4. 日々のケアで気をつけていることは何ですか?

三つとも人類よりも生存の歴史が長く環境耐性が強いので、エサに関してはしばし忘れても平気っぽいです。個体認識するような生命体ではないこともあって、ゆるやかに共存しています。うっかり◯◯してしまった、ということも、余程のことでないと感じることはありません。

コンポストの好気性微生物は活発になるようによくかき混ぜて空気を入れます。湿度管理も重要で、握ってふわっと湿っている感じを経験則で維持してます。パンくずや古い粉モノ、ポテチのカス、コイン精米から米糠を取ってきて、混ぜ合わせて水分調整します。微生物燃料電池は嫌気性なので、酢や食べ物の汁気を入れたり、餌とコンディションの調整を兼ねて液体を投入してます。

微生物の活動には寒暖差が影響するので室内に置いてます。苔は直射日光の当たらないベランダに置いて、たまにケースを空けて外気にさらしたり、息(二酸化炭素)を吹きかけたりしてます。


5. その生物が嬉しそうにしているときはどんなときですか?

苔は雨上がりの日差しのなかでもふもふの状態ですが、たまに苔の新芽発生の時期にのぞくと、緑のアメーバ状のモノが拡がっていて、1mm以下の小さな芽(?)が吹いていて、それがとてもハッピーに見えます。知らないと緑の藻が拡がっているだけのように見え、拭き取ってしまうかもです。

コンポストは元気が良いと朝、炊き立てのご飯のように湯気がたっています。バケツほどの容量でも50〜60℃ほどには温度は上がります。

微生物燃料電池は電圧の変動やLEDの明滅を生命活動と認識するので、電子回路の延長や自然エネルギーによる発電とも近い感覚があります。電圧値が高いとき、LEDの明滅周期が短く光量も多いときがハッピーな状態です。


6. 悲しそうにしているときはどんなときですか?

コケは光が不十分で多量の水分で蒸されると茶色く腐ります。逆に数カ月ほど水を与えなくても仮死状態で眠っていて、水を与えると復活します。微生物燃料電池はLEDが消え続けたり、電圧が日に日に下がると元気ないなと。


7. その生物とあなた(人として、あるいは作家として)とはどんな関係でしょうか?

現在も作品要素として培養していますが、家族もしくは身体の一部のような感覚で溶け込んでます。いまでは日々の感情(?)が手に取るようにわかるようになりました。夕方のスーパーであれこれ眺めながら家族との食事のプロセスを想像するとき、特にコンポストはきちんとそのなかの一員に入っています。コンポストは油分や火の通ったものが好きなので、我が家では揚物が増えました。その翌日はすごく元気で温かいです。廃油は数日に分けてそのまま投入してます。野菜くずは炒め物後のフライパンで火を通しますし、洗い物のときは洗剤の量を減らしたり、そもそも有機物がほとんど生ゴミとして出なくなりました。苔と微生物燃料電池は24時間以内のリアクションはないので淡々と接しています。

世界の分解者や酸素供給体の住まう小さき世界と密に接することは、人間である前に有機体であることを意識できて、とても楽しいです。



《コスモス / cosmos》(「空白のプロジェクト#3」)(2016)個展「空白に満ちた世界」京都芸術センター
苔、土、微生物燃料電池、電子、太陽追尾システム、鏡、分光フィルム[撮影:大島拓也]


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作家ウェブサイト

http://mhrs.jp/



山本愛子……藍


藍染めワークショップの様子


1. 何を飼って(育てて)いますか?

藍。タデ科イヌタデ属の一年生植物です。


2. いつから、なぜ飼い(育て)始めましたか?

2020年春、自然豊かな土地へ引っ越したことがきっかけです。もともと、私の家族がシェア畑をしていて楽しそうだなと思っていたので、家族に教えてもらいながら畑づくりをしました。そこで野菜と並行して、自身の制作に使用する染料も自給自足をしてみようと思い、藍を育ててみることにしました。


3. 餌は何ですか? どうやって調達していますか?

「良い土」だと思います。私の畑では、もともとその土地にあった土を耕し、自家製コンポストの堆肥を混ぜて育てています。丁寧に土に向き合うことで、翌年以降の藍の元気な栄養(餌)になっていきます。


4. 日々のケアで気をつけていることは何ですか?

なるべく手を加えず、日々観察をすることです。肥料や農薬を使わず、水やりも芽が大きくなってからはほとんどしません。大きな雑草が近くにあれば抜くなど、些細なケアをしています。人工的に成長を促すのではなく、藍自身の生命力を発揮できる環境をつくってあげることがケアだと思います。


5. その生物が嬉しそうにしているときはどんなときですか?

梅雨明けの成長期。毎日、目に見えて葉が大きくなり、生き生きして嬉しそうに感じます。


6. 悲しそうにしているときはどんなときですか?

自分自身が悲しい気持ちのとき。植物に向き合っていると、自分の心情が投影されてしまう瞬間がある気がします。


7. その生物とあなた(人として、あるいは作家として)とはどんな関係でしょうか?

大きくは、生産者(藍)と消費者(私)という関係です。人間は植物の贈与を受けずして生きられません。藍からは染料を生成するだけではなく、お茶にして楽しみ、日々眺めては心身が癒され、たくさんの恵みをもらっています。ただし、制作を行なうなかで、その関係は単なる消費とも異なるものになると思います。私にとって、藍は日常であり夢でもあるような存在です。日常を共にしてきたいわば雑草から、美しい藍色が布に染み入る瞬間は本当に夢のようです。そうして藍で染めた布、あるいは染める行為そのものが、作品やワークショップとして表現され、他者へと紡がれていく。藍と共生する日常から、藝術を通して夢のような出会いが生まれ、それがまた日常を豊かにしてくれる、その繰り返しを生きているのだと思います。



左から、《あわいのはた》(2021)、《Distribution map #2 》(2021)



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作家ウェブサイト

https://www.aikoyamamoto.net/



志村信裕……庭に群生する植物


[撮影:丸尾隆一]


1. 何を飼って(育てて)いますか?

広すぎる庭に群生する多種多様な植物。


2. いつから、なぜ飼い(育て)始めましたか?

2019年の夏、千葉県香取市にある今の住まいに引っ越してから。


7. その生物とあなた(人間として、あるいは作家として)とはどんな関係でしょうか?

東京生まれながら、デビュー以降は横浜、山口、パリ、千葉の順に移り住んできたが、現在の暮らしはいままでにない新しさがある。ご縁があって7年ほど空き家だった築100年以上の古民家に住まわせてもらっているが、とにかく庭が広い、広すぎる。そして家の周囲には田んぼと山がパノラマで広がっている。コンビニは近所にある? とよく聞かれるが、30分ほど歩いてやっと看板が見えるほどで、最寄りのコンビニでさえ車で行くような里山暮らしだ。

庭にはすでに多種多様な植物が植えられていて、何かを育てる余裕などまったくない。自然はお構いなしに育っていくが、自宅の庭は公園ではないので自力で何とかしないといけない。夏のあいだ、一番手がかかるのが雑草だ。なにせ一度に刈り取れないほどの面積なので、毎日草刈りしても追いつかない。家事と同じレベルで、日々のスケジュールに草刈りがある(ちなみに少しでもテンションを上げようとマキタの電動草刈り機を使っている)。興味深いのは草刈りにも上手い下手があるもので、素人仕事を見かねた農家のおばあちゃんにレクチャーしてもらったおかげで、2年前よりは上達したように思う。雑草の生命力が弱まってくる秋の始まりから困るのは大量の落ち葉だ。落ち葉は消えてなくならないので、毎日掃いては焚き上げないと庭が大変なことになる。田舎暮らしはスローライフなんて言われるが、自然の循環のお陰で夏から秋にかけて庭仕事は山ほどあるのだ。

雑草や落ち葉までは素人でも何とかなるが、樹木になると手に負えない。今年の春、旧友の家族が庭師だと知って、すがる想いで東京から来てもらい、庭の整備をしてもらった。植栽が得意な職人にひたすら枯れてしまった木や、伸び過ぎてしまった枝葉を切り落としてもらうのは申し訳なかったが、お陰で見違えるように庭が明るくなった。光だけではなく、風もよく通るようになって、植物たちも気持ちよさそうに見えた。「木を切るだけでお金がもらえるなんて、いい商売ですよ~あはは」なんて冗談を言っていたが、アーティストからの視点でその言葉を聞くと、とてもインスピレーションに満ち溢れる言葉として聞こえる。何かを生み出すことだけがクリエイションではないのだ。

手つかずの自然が美しいと謳うのは都会側の人間が抱く幻想で、自然は手を入れ続けないとどんどん荒れていく。現実問題として、家の周りには空き家や耕作放棄地があるが、そこには美しさのかけらもなく、目にするたびに哀しい感情しか湧き上がらない。庭という自然と人間が相互作用する環境を預かったことで、日本の農村地帯の美しい風景が、いかに目に見えない労働の積み重ねで維持されてきたのかを思い知れるようになった。ここに住み始めてから、自然を見る、感じ捉える解像度が少しだけ上がったように思う。



志村信裕《Dance》(2021/KAAT神奈川芸術劇場での展示風景)。投影している映像は庭に生えているクスノキの木漏れ日[撮影:加藤健]


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作家ウェブサイト

https://www.nshimu.com/