artscapeレビュー

BankART Under 35 2021 井原宏蕗、山本愛子

2021年06月01日号

会期:2021/04/23~2021/05/09

BankART KAIKO[神奈川県]

35歳以下の若手アーティストを支援する展覧会で、6月まで2カ月間にわたり計7人のアーティストを3回に分けて紹介していく。その第1回は、彫刻の井原宏蕗と染織の山本愛子の2人。

井原は動物の糞を使って彫刻を制作している。代表的なのは、犬や羊の糞を固めてその動物の全身像をつくった作品。排泄物によって、排泄した本体を再現しているわけだ。表面は漆でコーティングしてあるため、どれも黒くて無臭であり、いわれなければ糞だとわからない。糞が彫刻を構成する最小単位なので、点描絵画ならぬ点糞彫刻。そこでふと思うのは、人間像はつくらないのかということ。いや、つくらなくていいけど。絹布に蚕の糞(蚕沙と呼ぶらしい)で染めた新作は今回のためにつくったもの。会場のKAIKOはその名から察せられるとおり、輸出用の生糸を保管しておく帝蚕倉庫を改造したスペースだからだ。

山本は打って変わって草木染めの作品。テキスタイルを専攻した彼女は、中国やインドネシアなど東アジアを旅するうちに染織の素材や技法だけでなく、それがどんな土地で生まれ、どんな風土で培われてきたかに関心を抱くようになったという。今回は絹布に草木染めの作品を出品。藍から緑、黄、橙色までさまざまな色に染めた絹布をフリーハンドでつなぎ合わせ、大きな木枠に張っている。自然素材のため色彩もフォルムもテクスチャーも淡くて柔らかいが、絵画として見ればありふれた抽象でインパクトは弱い。しかし注目すべきは展示方法で、タブローと違って壁から離して裏面も見えるように展示しているのだ。いわば旗のようなリバーシブル作品。これは絵画にも応用できるかも。

黒褐色の糞の固まりとパステルカラーの草木染め。2人の作品は一見正反対を向いているように感じるが、どちらも自然素材。しかも糞にしろ漆にしろ絹にしろ染料にしろ、生物がつくり出す生成物や分泌物を素材にしている点で共通している(特に両者とも絹布を使っているのは、場所の記憶を呼び覚ます意図もあるようだ)。こうした「バイオメディア」による制作はポストコロナのひとつの流れかもしれない。

2021/04/23(金)(村田真)

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