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山口/阿部一直
「指定管理者制度」/伊藤隆道回顧展
札幌/
北海道立近代美術館
鎌田享
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2006年の気になる展覧会、動向
この数年来、公立美術館界をにぎわしてきた「指定管理者制度」。これまで地方自治体や自治体出資による公益法人が行なってきた公立施設の管理運営業務を、NPO法人や市民団体、企業など民間にも開放しようというこの制度。昨今の行財政改革・民間活力導入策の一端であり、すでに全国で実施例がありますが、2006年にはこの流れがさらに本格化。ディスプレイ会社や新聞社が全国の美術館の系列化を検討していると噂されたり、国でも数年前の独立行政法人化に続き指定管理者制度と同趣向の「市場化テスト」が動きはじめたり……。
そしていよいよ道立の文化施設でも指定管理者制度が導入されます。まず、これまで釧路市民文化振興財団に運営委託されていた北海道立釧路芸術館で、今春からこの制度を導入。さらに直営で運営されてきた旭川・函館・帯広の各道立美術館でも、数年後の導入が検討されています。美術館運営はおおまかに、施設本体の管理と、作品収集や展覧会など事業の実施の二つに分けられます。そしてそれを一般行政職員と専門職員(学芸員など)が、担ってきました。他県の指定管理者制度は、このうち施設管理のみを委託するか(島根県立美術館など)、両者を一括して委託するか(長崎歴史文化博物館など)というもの。それらとは異なり北海道の場合は、施設と事業双方の業務を一括して委託するが、同時に北海道職員である学芸員も施設内に配置し、指定管理者はその学芸員から助言を受けながら事業の実施にあたるというもの。事業の継続性を維持し地方自治体として必要な文化政策を展開するための方策ですが、自治体(学芸員)側と指定管理者側で深刻な意見の対立がおきた場合にどうするのかなど、不明な点も多々あります。そもそもこの制度が、少なくとも北海道では、財政支出軽減をひとつの目的としており、そのため指定管理者に支払われる運営委託費も、これまでの美術館運営予算を大きく下回ることは必定。資金が少なければ、支出をおさえる(管理費・人件費・事業費を縮小する)か、収入を増やす(収益が見込める事業を行なう)かして、赤字が出ないようにするのは世の習い。しかし制度導入が決定・検討されている道内都市の商圏人口は最大でも30万人程度と、文化事業が単独でペイする可能性はきわめて低い。市場規模の小さな地方都市にとって、この制度は一歩間違えば文化事業の停滞を招きかねません。
しかしながら、こうした不安感を抱えてもなお、私はこの指定管理者制度にひとつの可能性を見出したいと思います。それは、公共サービスは官の施策に任せ、一般の人々はそれを一方的に受益するという今日の日本の風潮から脱却すること。そして、市民一人ひとりが地域社会の構成員として自らが必要とするサービスを模索し実現していく、そんな市民参加型社会、本当の意味での自己決定型社会を考える機会になるのではないか、ということ。
実施段階では幾多の対立が予想されます。しかし立場の異なる人が集まれば、対立が生じるのは当たり前。これまでも公立美術館内では、行政職vs.専門職という構図がありました。大切なのはそうした対立と協議を経ながら、施設の運営方針を模索していくこと。建設的な協議を行なうためには、これまで以上に専門職・学芸員の側が、コストやマネジメントという視点、そして社会の中で美術館がある意義や果たすべき役割についての説得力ある理念、この二つを意識していかなければならないと思っています。
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2006年担当の企画および抱負
北海道立近代美術館正面に設置されている、伊藤隆道《回転螺旋・1月》1978年
今年担当する展覧会は、4月5日よりスタートする札幌生まれの造形作家・伊藤隆道の回顧展。1939年生まれの伊藤は、1960年代後半より曲げたステンレス・パイプをモーターによって動かす作品を発表、キネティック・アートを代表する作家として国内各地に作品を設置してきました。磨き上げられたステンレスの流麗な曲線によって構成されたその作品は、ゆるやかな回転にともなって思いもかけないユーモラスな動きを示すとともに、周囲の光を反射しきらめくような表情を見せます。それに加え伊藤は、札幌市中心部の大通公園を光の造形物で飾る冬の風物詩ホワイト・イルミネーションの企画立案に関わったり、舞台美術を手がけたりと、彫刻・工芸・デザインといった領域を越えた活動を展開しています。今回の展覧会は、そうした伊藤のユニークな活動の全体像を紹介しようというもの。展示室内外を使い、最新作を含む50点あまりの作品を展示する予定。作者ともども、鑑賞者が肩ひじはらず楽しめる展覧会にしたいと準備をすすめています。展覧会企画者として現在なお活動を続けている作家とともに仕事をする醍醐味は、その企画が願わくは作家にとって単に過去を振り返る機会に終わらず、次なる活動へのステップボードとなること。今春、長年勤めた東京芸術大学を退任する伊藤隆道。作品と鑑賞者の新たな出会いが、伊藤の造形世界と活動領域をさらに押し広げるのではないかと思っています。
[かまた
たかし]
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