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プライバシーステートメント
学芸員レポート
―1/15号掲載ー
札幌/鎌田享青森/日沼禎子福島/伊藤匡東京/住友文彦東京/南雄介豊田/能勢陽子福岡/山口洋三

―2/1号掲載―
東京/岡塚章子東京/関次和子|大阪/中井康之|神戸/木ノ下智恵子高松/毛利義嗣山口/阿部一直
独立行政法人国立美術館の「市場化テスト」について/「ジグマー・ポルケ 不思議の国のアリス」/「三つの個展:伊藤存、今村源、須田悦弘」/「大阪コレクションズ」
大阪/国立国際美術館 中井康之
2006年の気になる展覧会、動向
 今年は、国立美術館が独立行政法人化して5年目を迎え、中期目標に対する評価が下され、今後の美術館運営の指針が示される予定であった。しかし、風雲急を告げるかの如く、去年末の新聞各紙で話題となっていたように、政府の「規制改革・民間開放推進会議」によって国立美術館の市場化テストが導入されることがほぼ決定していた。結果的な話としては、文部科学省を後ろ盾にした平山郁夫、高階秀爾両氏の強烈な押し返しに依って、今回は、市場化テストは見送られることになったのだが……。その「市場化テスト」とは、「これまで「官」が独占してきた「公共サービス」について、「官」と「民」が対等な立場で競争入札に参加し、価格・質の両面で最も優れた者が、そのサービスの提供を担っていくこととする制度」だという。
 美術館という組織が、「公共サービス」という一面が在ることを否定はしない。それこそ、郵政民営化法案が国民の多大な支持の元に成立した現状において、とても小さな組織である独立行政法人国立美術館、同博物館を民間に移譲するということは、中央官僚とその取り巻きの政財界人にとっては既定の路線であっただろう。
 美術館の基本的な業務は「作品の収集・保存」「作品の調査・研究」「作品の展示」という三本柱に加えて「展示作品等を用いた教育普及」であることは言うまでもないことだが、彼ら(中央官僚とその取り巻きの政財界人)にとって、美術館業務における「公共サービス」というものは、その内の後者2つ、特に「展示」ということしか見えてこないのであろう。これは地方公共団体の美術館でも施行され始めている「指定管理者制度」と同様の図式である。
 例えば「A」という企画展に際して、「A」に関わる作品がどこかに用意がされていて、それを(a),(a’),(a”)…とするならば、それを単に並べれば展覧会は成立するように考えているのではないだろうか。
 しかし、実際には「A」という企画は、独自な「調査・研究」に基づいて、これまで(b)と規定されていたものを、実は(a-)である、というようなことを示すことであり、既成のコードがあるわけではない。これを「対等な立場で」誰が、どのように評価を下すのであろうか。
 また、その「(b) 実は(a-)」が、保存状態が望ましくなく、修復を施す必要がある場合、学芸員は、その作品に対して最も見識のある修復家と綿密に協議を行なったうえで実施するのであるが、このような修復に関しても、どのような基準で修復家を依頼するのであろうか(その前に、修復を必要とするような作品を選択する学芸員は「公共サービス」を行なう者として不適格なのであろうか)。
 もちろん、「市場化テスト」を行なおうとしている体制側にとって問題としているのは、このような些細なことでなく、ひとつのイベント(展覧会とは言わない)の喚起力を問題とする云々と言うだろう。例えば、W美術館展とか美術史上欠かすことのできないXの個展を開催して多くの入場者数を獲得するような……。これを優れた「公共サービス」と判断するならば、少なくとも文化的には「亡国的」な思想だという他はない。なぜならば、そのような展覧会は、歴史的に価値づけられた「作品」を有している国、美術館による覇権主義的な行為であり、日本は金を払って自国の文化を形成する機会を徒に失っているのである。
 開催したときには、入場者数なども含めて目立たない「A」展が、10年後、20年後に、その国の美術史を形成するような大きな役割を果たす、というようなことは誰が判断するのであろう。現在の5年毎の中期計画目標どころか、「市場化テスト」によって1年、あるいは展覧会毎に「対等な立場で競争入札」されるようなことが実施されれば、「A」展は実施できないことになるであろう。
 最後に、「博物館法」では、「『博物館』とは、歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成を含む。以下同じ)し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業を行い、あわせてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする機関」を国が認める公的機関が設置したものであると制定している。
2006年担当の企画および抱負
 4月18日から開催する「ジグマー・ポルケ 不思議の国のアリス」は、去年、上野の森美術館と共に関わった展覧会である。同時期に、「もの派―再考」の準備と、ソウルでの展覧会準備が重なったため、十分にテキストを書くこともできないであろうことはわかっていたが、関西でポルケの作品を紹介できるだけでも意味があると判断した。
 続けて6月27日から「三つの個展:伊藤存、今村源、須田悦弘」という展覧会で、伊藤さんを担当する(因みに今村さんは学芸課長の島が、須田さんは同僚の加須屋が担当)。国際美術館では、近作展という若手の作家を紹介する展覧会の枠があったが、それを三つ連結して企画展レベルにスケールアップしたような展覧会である。伊藤さんの作品は2001年のVOCA展に推薦してから何回か関わってきたが、国内で十分に紹介されてこなかったことも含めて、多くの(一般の)美術ファンに認めてもらうよい機会になればと願っている。
 また、来年となるが2007年1月16日からの「大阪コレクションズ」という展覧会も担当している。これは近現代美術作品を所蔵する大阪市立近代美術館準備室、サントリーミュージアム[天保山]および当館という経営体制の異なる3館のコレクションによって構成され、当館では海外の美術作品を、大阪市立近代美術館(仮称)心斎橋展示室では日本の近代美術を、サントリーミュージアム[天保山]ではデザインを中心に紹介する予定である。この展覧会は、いわゆる名品展ではあるが、大阪にもこのような作品があるという示威行為でもあり、また開館が待たれる大阪市のコレクションの紹介展でもある。
[なかい やすゆき]
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