学芸員レポート 04年02月




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「SANAA展」／芦屋市立美術博物館問題／デュシャン展／富弘美術館

金沢／金沢21世紀美術館建設事務局　鷲田めるろ

●2004年担当の企画および抱負

　金沢21世紀美術館（仮称）は10月9日に開館する。コンテンポラリー・アートに焦点を当てたコレクションと展覧会は、ブレゲンツやカールスルーエがそうであったように、世界のコンテンポラリー・アートの地図に「金沢」を付け加え、妹島和世と西沢立衛の建築ユニットSANAAによるラディカルな建築は、建築界に大きなインパクトを与えるだろう。国内の他の多くの地方美術館が収集・展覧会予算を確保できず、特に1990年代以降のコンテンポラリー・アートをまっとうに収集できていない状況で、同時代の作品を収集しているということは国内では貴重である。SANAAの建築は、ある特定の正面を排して全方向からのアクセスを可能とした円形の建物の中に、様々なプロポーションの展示室が群島のように分散する斬新なものである。展示室は展覧会に応じて様々な組み合わせが可能となっている。
　私は、開館展に続くSANAA展（2005年4-6月）を担当する。廊下を無くし、様々な大きさの部屋同士が接するアルメラのスタッドシアター、内部に仕切のない箱をずらしながら積み上げ、ずれた部分をトップライトとしたニューヨークのニューミュージアム・オブ・コンテンポラリー・アートなど、今後実現する彼らの多くのプロジェクトに見られる興味深いコンセプトを紹介するとともに、金沢21世紀美術館が現在の形に至る過程で生まれた様々なアイディアを見せることによってSANAAの建築に対する考え方を示したいと考えている。なおかつ、SANAAの建築に喚起され、それと対峙して制作してきた写真家の作品を展示したい。

●2004年の気になる展覧会、動向

　2006年を目処に存続が危ぶまれている芦屋市立美術博物館。昨年よりこの行政判断の是非とそのことの他の地方美術館への波及について議論されているが、この議論を継続し深めてゆくことは重要である。例えば仮に、石油等の巨大資本に支えられ、整備された海外の美術館（例えばゲティ・センター）が、そのすぐれた「具体」コレクションの一括買い取りを申し出た場合、芦屋市民、全国の美術関係者、そしてすべての国民はどのように行動すべきか。ゲティのコレクションとなったとしたら、データ化を含め世界にとって作品へのアクセスは格段によくなることが予想される。一方で「関西」や「日本」といったコレクションにとってのローカルな文脈とその形成史は消し去られてしまう。それでもコレクションが分散しないことでよしとするか。それともまた一企業に重要な遺産が集中してしまうことを危険視するか。公開性や地域性、公共性といったコレクションの本質に関わる別の議論が要請される。
　また、展覧会では、金沢と同時期に中之島に開館する大阪の国立国際美術館のデュシャン展。昨年万博公園の建物でヤノベケンジ展を成功させた平芳幸浩が自らの専門領域でどのような切り口をみせるか。さらに、第2回目の横浜トリエンナーレは、会場の都合もあってすでに今年は開催されないことが決まっているようだが、今年中に何らかの進展をみせるだろうか。
　一方、美術館建築の視点からは、一昨年コンペで話題を集めたヨコミゾマコト設計の富弘美術館が10月竣工予定。様々な大きさの円形の部屋がお互いに接しながら並ぶプランは、2008年のオリンピックに向け整備される北京の国立水泳競技場における、様々な大きさの水泡がバランスをとっている様子を構造化するコンセプトに連なる。完成への期待が高まる。

■鷲田めるろ
1973年京都生まれ。東京大学大学院美術史学専攻博士課程中退。世田谷美術館非常勤学芸員を経て、1999年より金沢21世紀美術館建設事務局学芸員。専門はコンテンポラリー・アート、美術館論。

[わしだ　めるろ]



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