竹久侑: 2008年7月アーカイブ

前回のブログで建築の展覧会についてふれたあと、建築をアートの領域のひとつ、とするような記述にふれ、ちょっと頭をがつんとされた。

Art
1. 美術史として知られるナラティブの一部として提示されたモノの総称。このナラティブによって批評の系図が作成され、絵画、彫刻、建築の3種のモノを通して掲げられた問題が扱われる。(Nicolas Bourriaud 'Relational Aesthetics', "Glossary"より)

荒い訳だけれどだいたいこんな内容。
これを読んで、ニューヨークの近代美術館は1932年に、いまは歴史的となった、当時の同時代建築、モダニズム建築の展覧会をすでに開催していたことを思い出した。
たしか展覧会名はInternational Style。
 
アートの領域が拡張され、境界線があいまいになっている今、建築をアートとする考えがあっても驚かないけれど、今ではなくて1930年代に、すでに建築展が美術館で企画されていたということが興味深い、といまになって思った。
となると、欧米では建築をアートとする考えが当時からあったのかもしれない、もしくはこの展覧会でその考えが打ち出されたのかもしれない。。。

これよりも先に建築展が美術館であった例もわたしが知らないだけであるのやもしれないけれど。。。
今日は、東京で展覧会調査。
昨夏の、当館での展覧会「ひびのこづえの品品ーたしひきのあんばい」でお世話になったひびのこづえさん。

こづえさんの展覧会が六本木のMITATEであったので行ってきた。
使用済みの衣装を流用して、こづえさんがコラージュしてリメイクしたワンピースがとてもかわいくて購買欲をそそられたが、10万を超えるその値に断念。。。

TAKE NINAGAWAで開催中の大竹伸朗展を見に行く。
新作のコラージュに、春にニューヨークのNew Museumで見たUnmonumental展を思い出し、
まだ欧米では認知度が低い大竹さんが、期せずしてアメリカの現代美術のひとつの動向とシンクロしているのではという印象を受ける。
オフィス内に展示されていた大竹さんの過去の作品にとくにパワーを感じた。

天井からつられた浮いた台のうえにマケットが載せられて、床ともうひとつ、空間内にレベル(水平地)がつくられたような展示方法がおもしろい。
青木さんのひとつの案件に対する試行錯誤の思考のながれがていねいになぞられた内容で興味深かった。
ただ、自分が建築の縮小されたマケットを読み取り、頭のなかで1:1大へ拡大して想像をふくらませる作業になれていないため、途中からはマケットよりもむしろ青木さんのテキストを楽しむ。

ふと森美術館で開催されていたル・コルビュジエ展のときの音声ガイドを思い出した。
音声ガイドなしで展覧会を見た1巡目。
音声ガイドつきで見た2巡目。
建築マケットや図面の鑑賞に慣れていない自分にとっては、音声ガイドが展覧会のおもしろさを倍増させ、コルビュジエの特徴やこだわりなどをよりよく体感するのに役立った。
とくに美術でない領域の展覧会を構成する際に、音声ガイドの有用性の高さを実感した。

となると。。。美術になれていない鑑賞者にとっては美術展でも音声ガイドがあった方がよいのか、と自問。
美術については、たとえばトーカーが来場者といっしょに展覧会をまわりながら対話して楽しむという鑑賞は作品が多角的に見れて有意義だ。
でも、音声ガイドとなると対話ではなくて「情報を与える」という一方向性の機能に集約しがち。そこにすこしひっかかりを感じる。
すでに「歴史」になり、立場が確立した作家の展覧会には、情報提供という機能は有用だけれど、現代美術の、とくに「これから」の作家に対しては、見る人が自 由に楽しめるのがいちばんと思う。そういう意味では、現代美術に限っていえば音声ガイドは「必須」ツールではないかな、というのが現時点での答え。

そういえば、昨夏の「ひびのこづえの品品ーたしひきのあんばい」展で、当館ではじめての音声ガイドを私が担当として制作した。
建築ではもちろんないが、美術という領域にはすっぽり入らない、こづえさんの活動のなかでも新境地だった、メーカーとの協同制作に焦点をあてた展覧会。
ここでは、こづえさんの独特の企業との協同のとりかたなどがかいま見れるような、音声ガイドを脚本。原案者であるこづえさんの声、それを商品におとしこむメーカー側担当者の声を紹介した。
クリテリオムの梅田くんが午前中に水戸OUT.
滞在中、梅田くんは当館の「レジデンス」という名の民家に泊まっていた。
そこでの生活環境にもあい、展示もパフォーマンスを終えた頃から余裕ができて、
映画を見たり、水戸の街を自転車で探索したり。
最初はわかりにくかった街のよさ、特徴が、数日いるとわかるようになったそうで、
いろんなところを探索。きっと住民のわたしよりも通になっていそう。
すっかりローカルのひとのリラックスしたいでたちで、東京へと経っていった。
そんな傍ら、クリテリオムの英語訳とデザインが完成して、入稿。
最速で8月5日に納品予定。まちどおしい。

そのほかもろもろ書類作成をした日。
今日は、大巻さんが来水。
秋の展覧会で、館外展示の設置場所のオーナーとお会いして許諾をいただくための来訪。
ついさきごろオープンした大巻さんの上海の展示風景画像を見せながら、大巻さんご本人が作品の話をすると、こちらまで改めて吸い込まれた。使用許可をいただいて、その後現調して、実際のつくりこみを想定。その後、ワークショップのつめをする。

秋の「日常の喜び」展に出品する岩崎貴宏さんの作品素材となる、古本をアマゾンで購入していたのが続々届く。でも、まだ足りなそう。エジンバラ滞在中の岩崎さんから連絡が来るのを待って、さらに購入するかなど後日協議。素材サンプルの消しゴムも届く。

同じく出品作家のGuy Ben-Nerの作品をNYから船便で送ってもらう手配にそろそろ着手。

MeToo推進室との定例ミーティング。19時から22時までみっちり。それでもまだまだ決められていないことが満載。来週の合宿ミーティングがキーポイントとなる。

クリテリオムの冊子のレイアウト案があがってくる。明日ごろには決められればうれしい。
英文校閲者からもフィードバックが昨日から入っていて、やりとりを通して微妙な訳のおとしどころを調整中。こちらもそろそろあがりそう。

サイト・サンタフェのビエンナーレから、水戸芸術館からの作家として出品していただいている藤浩志さんに、ロサンジェルスからラブコールがあったという連絡をうける。

仕事が終わりきっていないまま時間切れで帰宅。
明日はミーティングがないので、デスクワークに専念する予定。
こちらのアート日報も4日ぶり。
その間に、クリテリオム梅田哲也くんの展示完成(17日)と、秋の「日常の喜び」展に出品する森田浩彰さんの撮影のための来水(17日〜19日)、オピー展/クリテリオム内覧会(18日)、オープニング(19日)、そして、梅田くん即興ライブ(今日21日)があり、どたばたしつつも濃密で楽しく、有意義で、手応えも感じた4日間だった。

梅田くんの作品は、展示も即興ライブも、好き嫌いがはっきりする。
けっして万人ウケするタイプの作品ではない。
が、あるゾーンの人々は梅田くんが織りなす現象についてわけがわからないままにも、
ざわざわという胸騒ぎを感じたり、直球で琴線に触れてきたりする。
もとはといえば、自分もそうだった。
展覧会が開いて、即興ライブもおこない、スタッフなども含め、ひとびとの反応がざっくりと掴めてきた。
作品を気に入ったひとは、けっして声高ではないけれど、そう感想を伝えてくれる。
作品がよくわからないまま、消化不良の衝撃を受けたひともいて、そのことも耳に入ってきた。

テキストも予定どおり、内覧会までにアップ。
18日には撮影も入り、火花が飛び散る梅田くんの作品をどうすれば臨場感あるように撮れるかなど試行錯誤していただいた結果、よい写真をいただけた。
テキストは、昨日、梅田くんが即興ライブの設営をするのと並行して英訳し、今日、英文校閲に出したところ。これからデザインして、印刷されるには3週間弱。仕上がりが待ち遠しい。

「できた」とほっとするのもつかのま、秋の展覧会の準備がそろそろヒートアップしていく。
梅田くんの設営も、昨晩おそくまでがんばったおかげで、今日でだいたいの形が見えた。
あとは、壁の磁石のドローイングを作りながら、全体の最終的な調整が残る。

昨日から、ちょくちょくと関係者以外の方々が設営中の現場に顔を出す機会がある。
梅田くんの作品をはじめて見る人がほとんどで、みんなそれぞれに食いつき方がちがい、反応もずいぶん違う。その違いがとても興味深かった。

作家が設営をすすめるのに並行して、企画担当者としてわたしはテキストを書いている。
梅田くんが水戸に入る前に書いていた第一稿が、先週末の恵比寿での即興ライブと、初日の設営の様子を見て、急激に変わった。
その後も、現場で制作をする梅田くんの様子を観察し、あいまあいまに交わす対話を通して、梅田くんの考え方や立ち位置を確認していくうちに、自然と文章も変容していく。
展示が仕上がっていくにつれ、文章はその後を追うように形になっていく。
展示をすることが作家の仕事なら、その展示をふまえ、作家の性分を知り、文章にするのがキュレーターの仕事のひとつと思う。
18日が内覧会。それに間に合わせるように明日もうひとふんばり。


今日、クリテリオム作家の梅田くんが水戸入り。
これから19日のオープニングに向けて、現場での制作・設営に入る。

まずは、ソウルから着いた荷物と大阪から送った荷物を現場で開梱して、イメージづくり。
作品プランはもう決まっているが、今日から実際に現場でつくりあげていくなかで、細かいところがつめられていく。

梅田くんの傍らで作業を見ていると、決してむずかしい仕組みじゃないことがわかる。
なんでもない材料からシンプルな仕組みをつくって、不思議な現象をつくりだす--梅田哲也の醍醐味を再確認した。

クリテリオムの出品作家の梅田くんが恵比寿でライブをするということで、
水戸でMeToo推進室の出品アーティストによるプレゼンを聞いた後、東京へ。

着いたのは19:30過ぎ。
恵比寿のとあるビルの2階、事務所のような小さなスペースにぎっしりと人が肩を寄せ合っていた。
梅田くんの20:00からの出演に間に合い、頼まれていたガスバーナーを渡す。
(梅田くんは、火を使って音を出すのです)
スペシャルゲストに梅田くんの仲間の、堀尾寛太くんと植野隆司さんも参加。
植野さんは、今晩はなんと実況中継のリポーター役として、
梅田くんと寛太くんが繰り広げる、不思議な音の現象を説明する役。
でも、そんな植野さんもすっかり一緒になって楽しんでいました。
そんな3人のパフォーマンスに会場のお客さんもかぶりつき。

今晩のパフォーマンスは、水戸で予定している21日のパフォーマンスが雨天になった場合のプランB。プランAもいいけど、プランBもいいな、両方したいな、と思って帰路に就く。

22時の特急にすべりこみ、23:30ごろ水戸駅に着いたら、
最終電車に乗って帰宅しようとしていた森さんに遭遇。
まだMeTooのみんなが2次会中と聞いて、飲み会に顔を出す。
けっきょく2時すぎに解散。

梅田くんといい、MeTooといい、なんだか楽しいことになりそうな気持ちになった1日。
19日から、水戸芸術館の若手作家を紹介しているプロジェクト「クリテリオム」で梅田哲也さんの展示が始まる。

竹久 侑です。水戸芸術館現代美術センターで昨年1月より学芸員を務めています。
これから数ヶ月間、artscape BLOG2:アート日報に参加することになりました。

前々から、常日頃、展覧会を見ていたり作家と会っていたりして思ったことを書いていくメディアがほしいと思っていました。
まとまりきっていないけど気になって仕方がないことなどを、日報に散りばめながら書いていきたいと思います!

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