artscapeレビュー

境町の隈建築群

2021年09月15日号

[茨城県]

シラスの建築系チャンネルの隈研吾特集「建築が嫌われた時代の建築論──批評家・思想家としての隈研吾を読む」(7月14日放送)でゲストに迎えた『隈研吾建築図鑑』(日経BP社、2021)の著者、宮沢洋氏が、茨城県の境町が面白いというので行ってきた。小さな自治体だが、なんと6つもの隈建築が集中している。確かに傾いたルーバーが張り付いた道の駅さかい内《さかい河岸レストラン 茶蔵》(2019)や、木組みが導入された《さかいサンド》(2018)を訪れると、多くの人で賑わっていた。しかも無料の配布物では、世界的な建築家の名前を全面にアピールしている。もっとも、予算が十分にあるプロジェクトではない。干し芋の繊維をルーバーで表現したカフェ《S-ブランド》(2021)のほか、L字に連結する《S-Lab》(2020)や《S-Gallery》(2020)など、わずかなデザインの操作を伴う。が、国立競技場のような巨大な施設を手がける一方、シークレットワークになりそうな小さい物件も発表しているのが、隈研吾の特徴だ。それゆえ、境町の建築群は、地元で歓迎され、町おこしにも一役買い、ひいては建築家の存在を社会に知らしめることに貢献している。



《さかい河岸レストラン 茶蔵》



《さかいサンド》



《S-ブランド》



《S-Gallery》奥が《S-Lab》


個人的に興味深く思ったのは、小さい写真では一番わかりづらい《モンテネグロ会館》(改築2020)の空間が良かったこと(古材は構造でなく、装飾だが)。逆にルーバーを用いた建築は、サムネイル的なサイズでも写真映えする。



《モンテネグロ会館》


ところで、境町では、フランスのNavya社の自動運転バス「アルマ」を公道で定常運転していた。筆者が訪れた翌週、名古屋で同じバスの実証実験を開始というニュースが流れたことを踏まえると、こちらの方が先駆的なのかもしれない。



自動運転バス「アルマ」


さて、境町の次に足を運んだのは、今年オープンした同じ茨城県の《廣澤美術館》(2021)である。これも隈が設計したものなので、7作品を連続で見学した。デザインはシンプルにして明快であり、庭園に囲まれた三角形のプラン、6,000トンの力強い巨石が外壁を隠し、細い梁の列が天井を走る。なるほど、展示壁ゆえに開口は不要だから、壁が多くなるわけで、それを自然石で装飾している。もっとも、トップライトによって導かれたライティングダクトの位置のせいか、照明によって額縁の影が、かなり長く出ていたのが気になった。



《廣澤美術館》

2021/08/14(土)(五十嵐太郎)

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