2019年01月15日号
次回2月1日更新予定

artscapeレビュー

書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー

カタログ&ブックス│2019年1月

展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
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リフレクション──ヴィデオ・アートの実践的美学

著者:河合政之
発行:水声社
装幀:宗利淳一
発行日:2018年12月14日
定価:3,800円(税抜)
サイズ:A5判、328ページ

街中から携帯まで、映像に覆われた時代。だが、それを鋭く批判し続けるヴィデオ・アートの本格的な理論は、今までになかった……技術・メディア・文化の全面的考察からヴィデオの芸術的な可能性を導出し、アナログな電子メディアにおける技術、知性、欲望の様態を明らかにする。今世紀のヴィデオ芸術を牽引する映像作家による瞠目の書!

Rhetorica #04 特集:棲家

企画+編集:team:Rhetorica
発行:レトリカ西東京ラジオ(ver. 0.0)/遠山啓一(ver. 1.0)
販売元:Rhetorica
装丁:太田知也
カバーデザイン:永良凌
発行日:2018年12月16日
定価:3,000円(税抜)

私たちはいま、都市において、集まって余裕のある時間を過ごすことが難しくなっています。ゆっくりとした時間や思考、空想は今や贅沢なものになってしまっています。私たちが『Rhetorica #04』を通じて考えたのは、家族ができたり、物理的に遠いところに行ったり、身体を壊したりしても、それでも仲間と一緒にクリエイティブであり続ける条件や方法です。私たちは、人に、都市に、文化に、どんな期待を持つことができるのでしょうか。見慣れた固有名詞にありふれたキュレーション、綺麗に形だけ取り繕ったメディアでは届かない問いに向き合っていることが、本誌の特徴です。都市に棲み直すために、クリエイティブであり続ける条件や方法を考える。

[プレスリリースより]
ル・コルビュジエと近代絵画──20世紀モダニズムの道程

著者:呉谷充利
発行:中央公論美術出版
発行日:2018年1月15日
定価:3,200円(税抜)
サイズ:A5判、356ページ

20世紀最大の建築家──ル・コルビュジエ(1887-1965)。数多くの絵画や版画を制作した一人の画家でもあった彼が生命を吹き込んだ建築の本質は何だったのか? 近代建築を代表する建築家であるル・コルビュジエの絵画に着目し、1910年代の初期の絵画から1950年代までのその変遷を追いながら、これと並行する建築の変化も検証することで、ル・コルビュジエの絵画と建築をひとつの統一的な芸術活動としてとらえ、彼の創造的精神を考察する。

バウハウスの人々──回想と告白

編者:エッカート・ノイマン
発行:みすず書房
翻訳:向井周太郎、相沢千加子、山下仁
発行日:2018年12月15日
定価8,200(税抜)
サイズ:A5判変、384ページ

第一次大戦の敗戦から間もない1919年、ドイツ・ヴァイマールに革新的な造形学校がつくられた。その名も「バウハウス(建築の家)」。創立者グロピウスの宣言「あらゆる造形活動の最終目標は建築である。建築家、彫刻家、画家たちよ、我々は手工作に戻らなければならないのだ」の言葉に触発された才能ある若者たちが、世界中からこの学校を目指してやってきた。(中略)グロピウスの理念に応じ集まった綺羅星のごときマイスターたち、ファイニンガー、イッテン、クレー、カンディンスキー、シュレンマー、モホイ=ナジ…… 誰もが芸術上新しい道を歩もうとしている人々だった。そして、この共同体に暮らす学生たちは、男子は長髪、女子はミニスカートにショートカット、襟もつけず、靴下もはかずに町を歩き、ヴァイマールの人たちから「バウハウス人」と呼ばれていた。この書には、そんなバウハウス人、54人の生き生きとした証言・追想が収められている。両大戦間期、デッサウへの移転を経て、14年の間だけ実現したこの伝説の造形学校の日々を物語る、かけがえのない記録である。

吉田謙吉と12坪の家──劇的空間の秘密

発行:LIXIL出版
編集:羽佐田瑶子、川口ミリ
アートディレクション:祖父江慎
デザイン:藤井瑶(コズフィッシュ)
発行日:2018年12月1日
定価:1,800円(税抜)
サイズ:A4判変、80ページ

舞台美術を中心に考現学採集、装幀、文筆業など多彩なジャンルで活躍した吉田謙吉(1897-1982)は52歳(1949年)で東京・港区に12坪の家を建てた。小さなスペースながら小ステージがあり、恩師の今和次郎に「愉快な家」と言わしめた家。さて、その独創的な空間づくりの詳細はいかに。本書では、この12坪の家に影響を与えたであろう謙吉の仕事を振り返りながら、“劇的空間”としての自邸の秘密を解き明かそうとするものである。謙吉は、関東大震災、続く第二次世界大戦という多くの人々の暮しが解体された大災難に遭っても、彼のまなざしは常に自由で新しいものに向けられていた。バラック装飾社、考現学、築地小劇場での舞台美術の仕事、住まいの提案…… 人を喜ばせることが好きで、自身も人生を楽しく謳歌することを望んだ彼の生き方を、12坪の家を基軸に、謙吉が残した空間づくりに関わる数多くの記録と自身の言葉から探っていく一冊。

ヒスロム ヒステリシス

執筆:ヒスロム、志賀理江子、林剛平、清水建人
発行:T&M Projects
編集:細谷修平、せんだいメディアテーク
ブックデザイン:伊藤裕
発行日:2018年12月10日
定価:2,700円(税抜)
サイズ:165x223mm、128ページ

アーティスト・グループ「ヒスロム」のこれまでの活動をまとめた記録集。身体を用いたアクションによって土地と人間の関係を探索するアーティスト・グループ「ヒスロム」の活動を紹介する国内初の個展「仮設するヒト」が2018年11月3日(土)から12月28日(金)にかけて、仙台のせんだいメディアテークにて開催されます。(中略)本書は上記展覧会に合わせ刊行される、ヒスロムの活動をまとめた記録集となります。今までの活動や上記展覧会の展示風景などの多数の写真、志賀理江子をはじめとする3人によるエッセイ・論考によって構成された本書は、ヒスロムの圧倒的な活動を網羅した1冊になります。

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2018年12月15日号オススメ展覧会|ヒスロム 仮設するヒト





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2019/01/15(火)(artscape編集部)

野村恵子『Otari - Pristine Peaks』

発行所:スーパーラボ

発行年:2018

野村恵子の写真家としてのキャリアにおいて、ひとつの区切りであり、新たな方向に一歩踏み出した、重要な意味を持つ写真集である。写真の舞台になっているのは、山深い長野県北安曇郡小谷村。「厳しくも豊穣な山の自然とめぐる季節の流れの中で」暮らす住人たちの姿が、新たな命を妊ったひとりの若い女性を中心に描かれる。特に注目すべきなのは、狩猟と祭礼のイメージである。農耕民とはまったく異なる原理に貫かれた、まさに日本人の暮らしの原型といえるようなあり方をしっかりと見つめ、写真に残しておこうという意欲が全編に貫かれている。

いわば、濱谷浩が『雪国』(1956)や『裏日本』(1957)で試みた、民俗学をバックグラウンドとするドキュメンタリー写真の現代版といえるのだが、野村の写真は、若い女性の身体性を強く押し出すことで、「女性原理」的な視点をより強く感じさせるものになっている。プライヴェートな関係性にこだわってきた、これまで野村の仕事と比較すると、風土性、社会性へもきちんと目配りしており、緊張感を孕みつつ、気持ちよく目に馴染んでいく写真集に仕上がっていた。

なお、野村は入江泰吉記念奈良市写真美術館で古賀絵里子との二人展「Life Live Love」(2018年10月26日~12月24日)を開催した。同展にも本書の作品の一部が展示されていた。

関連レビュー

野村恵子×古賀絵里子「Life Live Love」|高嶋慈:artscapeレビュー

2018/12/30(日)(飯沢耕太郎)

中井菜央『繡』

発行所:赤々舎

発行日:2018/12/03

中井菜央の写真はこれまで何度か目にしたことがあるが、公募展に応募されたポートフォリオや写真展に並んだ作品を見て、いつもどこか物足りなさを感じていた。よくまとまった、志の高い作品なのだが、着地点が定まっていない印象をずっと持ち続けてきたのだ。だが、今回赤々舎から上梓された写真集『繡』のページを繰ると、もやもやしたものが払拭され、中井にとっての写真のあり方が、一本のクリアーな筋道としてすっきりと見えてきたように感じた。「写真集を作る」ということが、ひとりの写真家を大きく成長させるという有力な証左ではないだろうか。

中井が「ポートレート」を撮り始めたきっかけは、祖母のアルツハイマーの症状が進行していったことだった。亡くなるまでの数年間に撮影された写真群には、「祖母自身が培ってきた自己イメージの祖母でも、私のうちに蓄積されて北イメージの祖母でも、また、新たなイメージの祖母でもなく、しかし『祖母』としかいいようのない個の存在」が写り込んでいた。中井はやがて、その「個の存在」は「意味よりも先行し、かつ強い」と確信するようになる。その認識を敷衍することで、被写体の幅は、身近な他者の「ポートレート」から、モノ、植物、小さな生きもの、都市や森の光景などにまで広がっていった。

写真集には、それらがまき散らされるように配置されている。だが、写真を見ているとそれぞれが勝手な方向を向いているのではなく、見えない糸でつなぎ合わされているように見えてくる。それもそのはずで、中井の関心は次第に「個の存在」そのものより、むしろそれらが絡み合い、重なり合うことで形成される、「人が意図せず、束の間で解ける関わり、結び目」に向けられていったからだ。その「結び目」を嗅ぎ当てる能力が、以前より格段に上がっていることに瞠目させられた。一冊にまとめるタイミングと方向性はこれでいいのだが、ここから先をもっと見てみたい写真集でもある。

2018/12/29(土)(飯沢耕太郎)

カタログ&ブックス│2018年12月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
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「カタストロフと美術のちから」展覧会カタログ

発行:平凡社
編集:近藤健一、熊倉晴子(森美術館)、高城昭夫、明石康正(パッド株式会社)、押金純士
   湯原公浩、水野良美(平凡社) デザイン:松田行正、杉本聖士(株式会社マツダオフィス)
発行日:2018年11月21日
定価:3,200円(税抜)
サイズ:A4判変型、ソフトカバー、208ページ

近年多発する災害から日常の個人的な悲劇まで、人類を襲う惨事に美術はいかに向き合ってきたか。同名の展覧会図録を兼ねた一冊。

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「扇の国、日本」展覧会カタログ

発行:サントリー美術館
編集:サントリー美術館、山口県立美術館
デザイン:高岡健太郎(日本写真印刷コミュニケーションズ株式会社)
発行日:2018年11月28日
定価:2,315円(税抜)
サイズ:B5判変型、ソフトカバー、304ページ

日本で生まれ発展した「扇」は宗教祭祀や日常生活での用具としてだけでなく、最も身近な美術品でした。屏風や巻物、そして工芸や染織などとも結びついて、多彩な作品を生み出していきます。あらゆるジャンル、流派と交わる扇には、日本人が求めた美のエッセンスが凝縮されているのです。本展では、日本人が愛した「扇」をめぐる美の世界を、幅広い時代と視点からご紹介します。
本図録では、展示作品すべてのカラー写真と解説を掲載しています。

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日本のアール・ブリュット: もうひとつの眼差し

責任編集:サラ・ロンバルディ/エドワード・M・ゴメズ
編集:アール・ブリュット・コレクション
発行:国書刊行会
執筆:服部正
翻訳:藤森愛実
発行日:2018年11月20日
定価:3,500円(税抜)
サイズ:A4判、164ページ

世界のアートシーンから注目を浴びる日本のアール・ブリュット。「創る」ことへの原初的衝動から生まれた、ときに美しく、ときに奇妙で不思議な、24名の日本のアール・ブリュット創作者による独創的な作品を凝縮した充実の画集。創作の背景に秘められたドラマを臨場感たっぷりに伝える作家解説や、日本におけるアール・ブリュットの現状と課題について述べたエッセイも収録。
「アール・ブリュット」を命名した画家ジャン・デュビュッフェの収集作品を収蔵する、スイス・ローザンヌにある「アール・ブリュット・コレクション」で開催される「Art Brut du Japon, un autre regard / Art Brut form Japan, Another Look」展の日本語版公式カタログ。
◎収録作家(掲載順):戸次公明/土井宏之/蛇目/井村ももか/稲田萌子/鎌江一美/小林一緒/桑原敏郎/ミルカ/三浦明菜/モンマ/西村一成/西岡弘治/野本竜士/岡元俊雄/大倉史子/柴田鋭一/ストレンジナイト/杉浦 篤/竹中克佳/田村拓也/植野康幸/山﨑菜那/横山明子

抽象の力 近代芸術の解析

著者:岡﨑乾二郎
発行:亜紀書房
発行日:2018年11月22日
定価:3,800円(税抜)
サイズ:A5判、ハードカバー、440ページ

近代芸術はいかに展開したか。20世紀美術を動かした、真の芸術家たちは誰か。戦後美術史の不分明を晴らし、その力を発揮するはずの抽象芸術の可能性を明らかにする。雑誌掲載記事などに書き下ろしを加えて書籍化。

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2017年06月01日号キュレーターズノート|能勢陽子(豊田市美術館):岡﨑乾二郎の認識 抽象の力―現実(concrete)展開する、抽象芸術の系譜





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2018/12/15(artscape編集部)

スティーヴン・エリック・ブロナー『フランクフルト学派と批判理論──〈疎外〉と〈物象化〉の現代的地平』

訳者:小田透

発行所:白水社

発行日:2018/11/10

こんにち「Critical Theory」という言葉から、人はいかなる内容を連想するだろうか。それは「批判」理論として、あるいは「批評」理論として受け止められるべきものだろうか。この場合、「critical」という形容詞を「批判的/批評的」と訳し分けてきた近代日本語の伝統が、事態の正確な把握を困難にしている。本当のところを言えば、そもそも「批判/批評」とは互いに異なる二つのものではない。なぜなら「critical」とは、既存のいかなる価値も尺度も前提とせず、その物事をあらしめている土台や根拠を疑ってかかることの謂いだからである。

オックスフォード大学出版会の名シリーズ「Very Short Introductions」の一冊として刊行された本書は、政治学者スティーヴン・エリック・ブロナー(1949-)による批判理論(Critical Theory)の入門書である。ここでいう「批判理論」とは、邦題に明示されているように、第一にはアドルノやホルクハイマーに代表されるフランクフルト学派の理論を指している。現に、狭義の「批判理論」の入門書は、しばしばフランクフルトの社会研究所に集ったドイツの思想家たちの紹介に終始する。反対に、広義における「批判理論」を相手取ろうとする場合、そこでは必然的にフランクフルト学派という限定的なサークルにとどまらず、マルクス、ニーチェ、フロイトらを淵源とするより広範な思想を扱う必要に迫られるだろう。本書はその両者を絶妙なバランスで按配しつつ、フランクフルト学派の名とともに歴史に登記された「批判理論」のポテンシャルを現代に甦らせようとする一書である。

そして以上の特徴はそのまま、本書の内容にも反映されている。本書で著者ブロナーは、フランクフルト学派やその周辺の思想家(ホルクハイマー、フロム、マルクーゼ、ベンヤミン、アドルノ、ハーバーマス……)、および「疎外」や「物象化」といった彼らの諸概念について過不足ない説明を加えるいっぽう、「文化産業」批判をはじめとする彼らの理論に対しては仮借のない批判を加える。たんなる礼賛ではないその批判的再読を通じて、著者は批判理論を──彼らがもっとも痛烈に批判した──啓蒙の問題へと(再)接続する。フランクフルト学派の功罪を明らかにするとともに、そこから現代における新たな展望を示す、見事な手続きである。

なお、本訳書は初版(2011)ではなく、昨年刊行されたばかりの第二版(2017)を底本としている。この第二版で追加された章(第3章「批判理論とモダニズム」)は、文学や芸術におけるモダニズムと批判理論の関係について、簡にして要を得た見取図を提供してくれる。「批判理論をモダニズムのまた別の表出と理解することさえできる」(51頁)という著者の見解に何か感じるところのある読者には、まずこの章の一読を勧めたい。

2018/12/11(火)(星野太)

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