2017年11月15日号
次回12月1日更新予定

artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

「織物以前 タパとフェルト」展

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会期:2017/09/08~2017/11/21

LIXILギャラリー大阪[大阪府]

織機が生まれる以前、布の始まりはどのようなものだったろう。本展は、オセアニア(パプアニューギニア、フィジー、トンガ)の「タパ(樹皮布)」と、東南アジア(新疆ウイグル自治区カシュガル、トルコ)の「フェルト」を紹介し、布文化の始原を探るもの。そもそも、機織りによる織布は、オセアニアのごく限られた地域にしか伝播しなかったという。その代わりに不織布、つまり編布やタパが発達して、今日にまで伝えられている。タパは、カジの木の外皮を剥がし、水に晒して柔らかくした後、ハンマーなどで叩いて伸ばして作る。一見、紙のようにも見える素朴な材質感が魅力だ。製造に使う道具も展示で見ることができる。しかしその魅力を最大限にまで高めているのが、民族独自の装飾文様である。展示品の出品者でもある福本繁樹氏によれば、その装飾には神話、氏族の由来や名誉を表す重要な意味がある。皮膚に施すボディペインティングが、衣に変容したものと見られるそうだ。一方、遊牧民族が用いるフェルトのあたたかみにも独特の味わいがある。羊毛を幾層にも重ねて熱や圧などで加工し、シート状にしたものがフェルト。珍しい形のマントやアースカラーの美しい敷物が展示されている。世界の豊かな民族文化に触れて、手仕事と技術発展の意味、そして衣を纏うことの歴史の重層性について考えさせられる。[竹内有子]

2017/10/2(日)(SYNK)

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フィンランド独立100周年記念 フィンランド・デザイン展

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会期:2017/09/09~2017/10/22

府中市美術館[東京都]

1159年から1809年まではスウェーデンの支配下、1809年から1917年まではロシアの支配下にあったフィンランドが独立して100年。本展では、フィンランドの独立前、1900年のパリ万国博覧会から現在までのフィンランド・デザインを時代順に6章に分けて概観している。興味深い展示は、1900年前後の工芸品。フィンランド・デザインというと、一般的には第二次世界大戦後の北欧デザイン・ブーム、モダン・デザインのプロダクトを目にすることがほとんどで、独立以前の装飾的な工芸品を見る機会はほとんどないからだ。出品されている陶磁器やガラス器は、西欧のデザイン史的にはアール・ヌーヴォー期の終わりに相当する時期のものだと思うが、器の形や文様は比較的シンプルでその後のモダン・デザインへの流れを想起させる。柏木博は世紀転換期に「力強さと率直さがフィンランドのデザインの方向を特徴づけた」と書き、その背景としてフィンランドが北欧の中でも貧しい地域であったことを挙げている(本展図録、21頁)。たしかに、西欧のアール・ヌーヴォーの装飾は工業的生産に適せず、高価で、主に新興富裕層のためのデザインであったことが指摘されるが、フィンランドにおいては経済的状況ゆえに比較的シンプルなデザインが生まれたのだとしたら、その伝統がその後に消費者として台頭してきた欧米や日本の市民にに受け入れられるものになったと考えてもおかしくない。プライウッドを用いたアルヴァ・アアルトらの家具、絵付けのない色彩のみによるカイ・フランクの陶磁器やガラス器、織ではなく、伝統的な染やプリントでもなく、安価なシルクスクリーン印刷を用いたマリメッコのテキスタイルもまた、そうした国家の歴史的経緯のなかから必然的に生まれてきたデザインと考えることもできようか。
フィンランド・デザインの展覧会というと、トーベ・ヤンソンのムーミン・シリーズは欠かせない。とはいえ、トーベ・ヤンソンの仕事は「デザイン」なのかという点に筆者は常々疑問を抱いているのだが、ここではムーミン・シリーズに登場するキャラクターを用いたフィンレイソン社のプリント・ファブリックや、トーベ・スロッテによってアレンジされたアラビア社のマグカップやタイルなど、キャラクター・グッズが数多く紹介されており、たしかにこれはデザインという文脈で紹介されうる仕事だと納得させられたのだった。
なお本展は、宮城県美術館に巡回する(2017/10/28~12/24)。[新川徳彦]


会場風景

2017/10/19(木)(SYNK)

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つながる食のデザイン展

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会期:2017/10/07~2017/10/22

デザイン・クリエイティブセンター神戸[兵庫県]

神戸の食に関わる人々が考える未来像や諸活動を紹介する展覧会。シェフ、酪農家、販売者らとクリエイターたちが協同して、映像や展示を通じ「食」の現場の問題を可視化する試みである。食の安全や今後の可能性、酪農にみるサステナビリティやエコロジー、パンの製造工程から流通に至る過程にみる個人の価値観の検討、豚まん製造にみる職人技、食に関わる疑問を消費者と製造者が語るドキュメンタリー、売り場での消費者とのコミュニケーションの価値、食育の問題、チョコレートから味覚の記述を参加者に再考させるもの等々、テーマは多様で幅広い。デザイン・クリエイティブセンター神戸は、食のデザインに関わる実践的プロジェクトやイベントを連続的に行なってその記録をまとめてきた。そこには現場のヒアリングで多くの問題が提起、諸反応が蓄積されてきただろう。本展は、食の問題を異なる立場から表明するという点では意義深いが、各人のさまざまなコンセプトあるいは意見の蓄積を「どう見せるのか」あるいは「どうテーマ構成するのか」という点で、より総合的なディレクションが必要だと感じた。とはいえ、これからも市民を巻き込み、都市の活性化を促す、同センターの地道な営為を応援してゆきたい。[竹内有子]


会場風景

2017/10/16(月)(SYNK)

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オルセー美術館 至宝のリマスターアート展

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会期:2017/10/04~2017/10/17

大丸ミュージアム神戸[兵庫県]

本展で用いられる「リマスターアート」とは、記録用のデジタルアーカイヴ画像をもとにした原作の復元を意味する。ただし注意が必要なのは、これがオルセー美術館の公式な認定を受けたレプリカであること。だから、通常では許可されない「原寸大」のサイズで作られている。高精細の3D画像によって作品解析を行う、最先端技術をもって作成された復元作品は「マスターレプリカ」と呼ばれる。もっとも、これを狭義の「美術鑑賞」の場でどう捉えるかについては意見の分かれるところだろう。復元画は、当然ながらメディウム自体を再現するわけではない。原作の筆のタッチや絵具が盛り上がる様子はよく見えても(画面は特殊顔料をスプレー状のもので吹きつけて仕上げられるという)やはり平坦であり、実際の生々しいテクスチュアや迫力のある凹凸までは写さない。しかしながら、従来の印刷物等による複製とは異なる高度な技術は、原画の筆触や色彩の正確な再現を可能にしている。今後の研究や教育での活用が大いに期待される。また異国の美術館に足を運んで見ることができないような場合にも、同技術の復元品は役立つ。本展では、美術史に出てくる名作(印象派以前からマネ、印象派とポスト印象派の巨匠たち)ばかり計60点を見ることができる。最新の複製技術の発達に目を瞠るか、はたまた真性のアウラを作品鑑賞に求めるのか、その人次第。実見して確かめるのも悪くない。[竹内有子]

オルセー美術館公式認定 Precision Re-mater Art
https://www.youtube.com/watch?v=zwjvWx7sIdE

2017/10/15(日)(SYNK)

20周年記念 家電のある生活展─暮らしのデザインミュージアム2017

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会期:2017/09/18~2017/10/15

世田谷文化生活情報センター 生活工房[東京都]

家電─家庭用電気製品─という言葉が現れたのは概ね1950年代半ば、日本の高度成長期以降のことと考えられる。もちろん、戦前期から照明器具、ラジオ、扇風機など、電気製品は存在した。しかし多くの家庭に新たな娯楽をもたらした白黒テレビ、家事を省力化する洗濯機、生鮮食品を保存できる冷蔵庫など、いわゆる「三種の神器」が登場するのは戦後のことだ。1960年代半ばには3C(カラーテレビ、クーラー、自動車)、2000年前後にはデジタル三種の神器(デジタルカメラ、DVDプレーヤー、薄型テレビ)が登場。時代々々において家電製品は私たちの暮らしを大きく変えてきた。この展覧会は、これら主要家電製品のこれまでとこれからを概観する企画だ。
焦点が当てられているのは「生活」。展覧会のサブタイトルで「デザイン」という言葉が指し示しているのは色や形、文様それ自体のことではなく、私たちの生活スタイルにほかならない。時代順に4つのパートで構成された展示では、新しい機能と同時に物理的なモノを所有することの喜びをもたらした家電の役割が、次第にモノを媒介とした体験へと移り変わり、現代においてはインターネット、AI、ビッグデータといった形のないデータに接続するためのインターフェースになってきたことが示される。とはいうものの、かつての「三種の神器」が必ずしも新しい「三種の神器」によって置き換えられてきたわけではない。白黒テレビがカラーテレビ、液晶テレビに変わっていった例や、フィルムカメラがデジタルカメラ、スマートフォン内蔵カメラへと変わってきた例はあるが、冷蔵庫、洗濯機、クーラー、自動車等々は、機能やデザインを進化させながら現在でも私たちの生活に欠かせないものとなっている。つまり、私たちが所有する家電の種類、範囲は戦後、どんどんと拡大し、身の回りのモノが次第々々に増大してきたということに気づかされる。
1997年にオープンし、今年20周年を迎えた生活工房では、これまでに多くのデザイン展が開催されてきた。しかしここのデザイン展は他の多くのデザイン展とは少し異なっている。他のミュージアムで開催されるデザイン展が主にデザイナーや著名なプロダクトに焦点を当てることがほとんどであるのに対して、生活工房のデザイン展の目線は常に生活者側、デザインの使い手側にある。この視点はとても重要だ。なぜならば、デザインが私たちの暮らしを豊かにするものだとするならば、デザイナーがなにをつくったかということと同時に、私たちがデザインになにを求めてきたのか、デザインが私たちの暮らしをどのように変えてきたのかという事実の検証が大事になるからだ。生活工房の企画にはこれからも注目していきたい。[新川徳彦]

2017/10/15(日)(SYNK)

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