2017年08月01日号
次回9月1日更新予定

artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

熊本地震、木造仮設住宅

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[熊本県]

熊本へ。空港の近くで被災が甚大だった益城町のエリアは1年以上が過ぎ、激しく壊れた建物はもうあまり目につかなくなっているが、不自然なくらい真新しい道路、地盤や塀の破壊、使用停止になった庁舎、体育館、運動施設、そしておそらく大破し、住宅が除去された空き地などが、地震の記憶を想起させる。やはりプレハブの仮設が多いなか、ここでもいち早く間仕切りを避難所に設営していた坂茂による御船町の木造仮設住宅は、小さなコミュニティの場を中央に挟み、建築としても質が高い。ただし、これは例外的な試みとなっており、これがもっとシステム化され、社会で運用されるとよいのだが。

写真:上3枚=坂茂による木造仮設住宅 左下=破壊された地盤 右下=使用停止になった庁舎

2017/07/15(土)(五十嵐太郎)

《三角港キャノピー》

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[熊本県]

三角港へ。葉祥栄による《海のピラミッド》を訪れるのは、25年ぶりか。フェリー航路がなくなり、現在は純粋なモニュメントと化したが、機能を喪失したことによって、円錐の内外に二重螺旋を描く明快な幾何学はむしろ強度を増した。今回は橋梁などの土木デザインで知られるローラン・ネイが設計した弧を描く《三角港キャノピー》の見学が目的である。これは葉の円錐との絶妙な形態の関係、一列の細い柱で屋根を支える構造美、風景の切り取り方が素晴らしい。また、すぐ正面に建つ三角駅はレトロ建築でかわいらしい。そして近くの小材健治による《漁業取締事務所》は攻撃的な造形だった。『建築MAP九州』では全然魅力的に紹介されていないが、三角西港のエリアがととてもよかった。世界遺産に指定されているが、ヘンに浮かれた感じもなく、落ち着いた街並みである。オランダ人技師と石工による明治時代の土木事業が丁寧で、石造の排水路やウォーターフロントの美しいこと。そして明治、大正にさかのぼる近代建築群も保存されている。国内において近代の港がこれだけ街ごと残っているケースはめずらしい。

写真:上=《三角港キャノピー》と《海のピラミッド》 左上から=《三角港キャノピー》の広場と駅、三角駅、三角西港の近代建築 右上から=《海のピラミッド》内部、《漁業取締事務所》

2017/07/15(土)(五十嵐太郎)

《宇土マリーナハウス》《宇土市立網津小学校》《宇土市立宇土小学校》

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[熊本県]

熊本市内に向かう海辺の道路沿いにしょうもない建物やつぶれた店舗が続くなか、吉松秀樹によるストライプを施した《宇土マリーナハウス》は一服の清涼剤だった。坂本一成による《宇土市立網津小学校》は、集落のように連続するヴォールト屋根が印象的なデザインだが、現地を訪れると、周囲にビニールハウスが並ぶ風景のヴァナキュラー的な表現のように見える。そしてCAtによる《宇土市立宇土小学校》の外観は、強く主張しないが、階段を上って中庭群が見える2階レベルを散策すると、とても魅力的な空間であることに感心させられた(休日のために、子どもがまったく不在でもよいのだ)。威圧的になりがちな体育館のヴォリュームも巧みに全体の構成に組み込み、プールもカッコいい。ただし、教室には入ってないので、さまざまなに配置されたL壁の効果は確認できなかった。

写真:上3枚=《宇土市立宇土小学校》 左下2枚=《宇土マリーナハウス》 右下2枚=《宇土市立網津小学校》

2017/07/15(土)(五十嵐太郎)

MONSTER Exhibition 2017

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会期:2017/07/14~2017/07/18

渋谷ヒカリエ8 / COURT[東京都]

公募の審査を務めた「MONSTER展」のオープニング@ヒカリエ。今年は平面作品が多いこと、ノンジャンルだが、アート系が目立つ。ベタな怪物を表現した作品よりも、「monster」の語源にさかのぼり、その存在を予感させる西尾侑夏、hasaqui yamanobe、ATSUらの絵画が興味深い。ただ、本当の力作は立体の方にあって、慰霊の念を込めたアール・ブリュット的、チェンソーを駆使した荒々しい造形による山元町のしょうじこずえと、化ける女性に狐の相貌を与えた木彫の木村桃子が印象的だった。物語の妄想力という観点では、倉坪杏奈によるハイブリッド・ヒューマノイドのプレゼンテーション(?)はインパクトがあった。オープニング後の打ち上げでは、鳥山明で目覚めて、いまも続くドラゴン愛を多面的に語る女性(作家名はDRAGONIST)がいて、さすが「MONSTER展」の参加者だと感心させられた。もっとも、今回の応募作はそのパッションが足りず、昔の作品の方が熱量は大だった。

2017/07/13(木)(五十嵐太郎)

超絶記録!西山夘三のすまい採集帖

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会期:2017/06/09~2017/08/22

LIXILギャラリー大阪[大阪府]

展覧会のカタログに寄稿した「超絶記録! 西山夘三のすまい採集帖」@LIXILギャラリーへ。日本の漫画史でも紹介されたように、伊東忠太が漫画を描いたのは有名だが、西山も子どものときから書きためた漫画をこんなにも保存していたのかと驚かされた。団地から戦後のバラックにいたるまで、さまざまなタイプの住宅の「河童が覗いたインド」的(登場した順番は逆だけど)なドローイング群が壁をおおう。手を動かすことが好きだったに違いない。そして写真による住まいの記録、極小の文字でぎっしりと書き込まれたメモ帳も圧巻だった。

2017/07/10(月)(五十嵐太郎)

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五十嵐太郎

1967年生まれ。東北大学教授。建築史、建築批評。著書=『終わりの建築/始まりの建築』『新宗教と巨大建築』『戦争と建築』『過防備都市』『現代...

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