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寺内曜子 パンゲア/コレクション展: ひとつの複数の世界

2021年10月01日号

会期:2021/07/10~2021/09/20

豊田市美術館[愛知県]

東京でパスった「モンドリアン展」を見に行ったが、垂直・水平線と三原色で構成されたいわゆるモンドリアンらしい絵画は4点しかなく、大半は抽象以前の初期作品に占められ(それはそれで興味深いけれど)、期待していた展覧会とは違った。でも「モンドリアン展」の関連企画で、寺内曜子の個展を見られたのは幸いだった。

作品は正方形の展示室を使ったインスタレーションで、壁のほぼ目線の高さにグルリと赤い線が引かれている。その線は出口を超えて窓の外まで続き、終わりが見えない。この一定の高さを保った水平線は、文字どおり海の水平線を思い出させるが、注意を喚起する赤の色彩も相まって、東北で見た津波の最高到達点を示す線を想起させもする。だが、この作品の意図はとりあえずそこではない。展示室の中央には台座が据えられ、これもほぼ目線の高さに、ところどころ赤い線が走る直径数センチの球体が置かれている。この球体は紙を丸めたもので、赤い線は紙の四辺の縁(小口)に塗られたものであることがわかる。とするなら、壁の赤い線はその紙を拡張させて壁に達したときの接線ともいえる。



[筆者撮影]


タイトルは《パンゲア》。数億年前に存在したといわれる超大陸の名で、古代ギリシャ語の「パン(すべての)+ガイア(大地)」を語源とする。大陸移動説によれば、このパンゲアがいくつかのプレートに分裂して現在の6大陸になったという(プレートテクトニクス理論)。この小さな球体も元は1枚の平面であり、その縁が内部に丸め込まれたり外側に露出したりして球面上の赤い線として現われるのだから、プレートテクトニクスのモデルと見ることもできるだろう。ならば壁の赤い線は超大陸パンゲアの地平線か。紙を丸めたり壁に線を引いただけで動態としての地球に思いを馳せられるのだから、痛快きわまりない。そして、プレートの離合集散が地震を起こす要因であるなら、壁の赤い線に津波を想起したのもあながち的外れとはいえないだろう。

2021/08/31(火)(村田真)

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