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「静けさの創造」展、「歴コンを語る ~10年間の振り返りと今後のビジョン~」

2021年12月15日号

会期:2021/11/16~2022/05/29

谷口吉郎・吉生記念金沢建築館、金沢学生のまち市民交流館[石川県]

金沢で毎年、開催されている歴史的空間再編コンペティションが十年目を迎えるにあたって行なわれた特別企画「歴コンを語る ~10年間の振り返りと今後のビジョン~」に参加した。歴代審査員、歴代入賞者、そして歴代の学生スタッフを集めたイベントで、筆者は立ち上げの第1回の審査員を務めていたからである。今世紀に入り、せんだいデザインリーグを筆頭に、日本各地でさまざまな学生のコンペが増えたが、金沢は重層的な建築の歴史が残る特性をいかして、歴史をテーマに掲げたことで、類似企画と一線を画している。会場もユニークで、町家を改修し、2012年にオープンした金沢学生のまち市民交流館を使い、畳の上で議論したり、模型が置かれているのは、ほかにはない特徴だろう。個人的にはデザインを通じて、歴史に関心がもたれている状況は好ましいが、一方で建築史に興味をもつ学生が本当に増えているという実感はなく、歴史がただのネタとして消費されていないか、あるいは単にまったく触れられない静的な保存の対象になり、思考停止していないか、そのあたりを注意深く見ていきたい。



金沢駅前に展示された「歴コン10年の歩み」



特別企画・座談会の会場 金沢学生のまち市民交流館



金沢学生のまち市民交流館 外観



歴コンに出品された模型


さて、金沢21世紀美術館の大成功もあって、金沢は市として建築のまちづくりに力を入れており、歴コンにも協力しているだけでなく、公立として日本初の建築ミュージアム(谷口吉郎・吉生記念金沢建築館)を2019年にオープンさせた。現在、谷口吉生が設計した11の美術館を紹介する企画展「静けさの創造」を開催している。もちろん、会場となる建築も彼が手がけたものだが、初期の《資生堂アートハウス》(1978)や《土門拳記念館》(1983)に始まり、《ニューヨーク近代美術館新館》(2004)や金沢の《鈴木大拙館》(2011)までをとりあげており、すべての作品を筆者は最低2回以上訪れていたことに気がついた。そのうえで、やはり図面、写真、模型などで、形状やプランはわかっても、空間の素晴らしさを伝えるのは難しいことを再確認した。どれも実物の方が断然良い。もっとも、建築には写真映りの方が良いケースもあることを踏まえると、谷口の美術館はやはり実際に内部を歩いて、体験しないと理解できないことが特徴なのだろう。実際、建築から見える風景は、現場でないとわかりにくい。なお、会場の外にあるロビーで流していた映像が、もっとも空間の再現性が高いと感じた。また『日本経済新聞』で谷口が連載した「私の履歴書」から、美術館の回を抜粋したテキストも興味深い。



谷口吉郎・吉生記念金沢建築館



「静けさの創造」展 展示風景


2021/11/20(土)(五十嵐太郎)

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