artscapeレビュー

題府基之「untitled(pee)」

2022年02月01日号

会期:2021/11/21~2021/12/25

MISAKO & ROSEN[東京都]

電柱に水の染みといえば、誰でも犬のマーキングを想像するだろう。タイトルにも「pee(おしっこ)」とあるから、そう思うのも当然だ。だがギャラリーの壁に、やや仰々しい大判プレートのフレーミング(129・8×86・4㎝)で展示してある11点の作品は、どうやら「アーティスト本人が放った水」を撮影したもののようだ。プリントの色味や質感もちゃんとコントロールしているのですっかり騙されてしまった。

題府基之はこのところ、家の「内部」から「外」へと被写体の幅を広げている。今回の「untitled(pee)」もその一環といえるだろう。そこに「アーティスト本人」によるパフォーマンスの要素を加えたところに、題府の意欲を感じる。やや小味ではあるが面白味のあるシリーズになった。ただ、コンセプトをあまり厳密に定めすぎると、以前の彼の作品に横溢していた破天荒で勢いのある偶発性が失われ、まとまりのよすぎる仕事になってしまう。そのあたりのバランスの取り方が、今後の課題といえるのではないだろうか。

展覧会にあわせてMISAKO & ROSENから同名の小冊子も刊行された。こちらは「pee」が写っている写真だけでなく、街路の一部を即物的に切り取ったスナップ写真(人影はない)を併載している。その方が、「外」に向ける題府の視点が、よりクリアにあらわれてきているようにも見える。展示でも、内と外の両方の要素の写真を対比的に並べるやり方も考えられそうだ。

2021/12/22(水)(飯沢耕太郎)

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