artscapeレビュー

竹下光士「GEOSCAPE MTL 中央構造線」

2022年04月15日号

会期:2020/04/05~2022/04/18

ニコンプラザ東京 THE GALLERY[東京都]

竹下光士は2016年ごろから「撮影テーマを地形・地質に絞り、自らを『地形写真家』と名乗る」ことにした。風景を地形学、地質学的に見る写真を撮るということだが、そのユニークな視点は、発見の驚きと歓びを感じさせるものになっていた。

今回のニコンプラザ東京 THE GALLERYに出品されたのは、彼自身が「GEOSCAPE」(商標登録しているそうだ)と呼ぶ写真シリーズの第一弾である。日本列島を東西に貫く中央構造線(Median Tectonic Line=MTL)をテーマとして、「領家変成帯」の白色の花崗岩群と、「三波変成帯」の緑色の結晶片岩群が剥き出しのまま隣り合っている、長野県大鹿村の「安康露頭」にカメラを向けた。「安康露頭」を50枚に分割して撮影したパネル群が正面の壁に展示され、その左右に、それぞれ花崗岩と結晶片岩の組成を持つ日本各地の地形の写真を並べている。それらを見ると、地形学や地質学に関心のあるもの以外には縁の遠いものと思われがちな「中央構造体」の姿が、くっきりと浮かび上がってくる。不可視の存在を可視化することができるという写真の機能を見事に活かした、卓抜なプロジェクトの成果といえるだろう。

それらはたしかに「研究者と一般を繋ぐ架け橋」の役割を果たすものだが、それだけではなく、風景写真としての面白さも充分に楽しむことができる。地形学や地質学の知識を踏まえて風景に対峙することで、新たなものの見方が生まれつつあるのではないだろうか。竹下はさらに塩類の風化を扱った「GEOSCAPE Tafoni」、火山としての富士山をテーマにした「GEOSCAPE Volcano FUJI」も準備中だという。それがどんなものになるのか、大いに期待できそうだ。なお、本展は2022年5月6日~5月18日にニコンプラザ大阪THE GALLERYに巡回する。

2022/04/07(木)(飯沢耕太郎)

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