artscapeレビュー

前橋の地域活性 JINS PARKと煥乎堂

2022年09月01日号

[群馬県]

すでに二度、その空間を体験しているが、一度泊まってみたかった《白井屋ホテル》(2020)を予約したので、前橋を訪れた。少し街の中心部から離れていたため、未見だった永山祐子による《JINS PARK》(2021)にも足を運んだ。もちろん、JINSの店舗なのだが、よくあるビルの中のお店ではない。銅板にくるまれた本体の手前に庭をもち、ベーカリー&カフェを併設した独立した建築である。内部に入って驚かされるのは、非店舗の部分が多いこと。中央に座れる大階段があり、登った先はテーブルと椅子が並び、さらに屋外テラスに続く。大都市の中心部では、稼ぐための空間が求められるため、こうした余裕のある空間は難しいだろう。実際、これは地域に貢献する公園のような場所として構想されたプロジェクトである。《白井屋ホテル》も、通常のスキームならば、もっと部屋数を増やすと思われるが、そうではないからこそ、贅沢な空間を味わえる。ほかの宿泊客がいない朝食のときは、吹き抜けの大空間を少人数で占有できた。



《JINS PARK》外観



《JINS PARK》非店舗エリア



《JINS PARK》屋外テラスに続く



筆者が宿泊した客室の塩田千春の作品


一連のプロジェクトは、前橋でJINSを創業した田中仁が展開しているものだ。彼は各地の店舗デザインでも建築家を起用してきたが、近年は積極的に地元の街を活性化することにも取り組んでいる。現在の日本では、あちこちの地方都市で百貨店が消えているが、特に前橋では、民間の側からどのように再生できるのかが注目されている。




白井屋ホテルの隣も開発予定


ところで、今回、店頭に大きく記されたラテン語の文章「QVOD PETIS HIC EST」を見て、初めて気づいたのが、《煥乎堂》の位置だった。これは明治初年に創業した書店だが、かつて1954年に白井晟一が設計した本店が建てられ、文学者が集まったり、展示なども行なわれ、文化の中心だったらしい。白井の空間はもう壊されていたことは知っていたが、建て替えによって、書店のビルは存在していたのである。3階の古本屋もなかなか良い品揃えだった。なお、建物のファサードをよく観察すると、右側の壁に白井の建築についていた小さな水栓が残っている。



白井晟一設計の《煥乎堂》の水栓



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