artscapeレビュー

野村浩「KUDAN」

2022年11月15日号

会期:2022/10/19~2022/11/20

POETIC SCAPE[東京都]

野村浩は写真作品を中心に発表してきたアーティストだし、会場のPOETIC SCAPEも写真専門のギャラリーである。今回の展示でも、当然写真作品が出品されていると思っていたのだが、大小の油彩画と立体作品だけが並んでいた。もっとも、東京藝術大学で油画を専攻した野村は、これまでも絵画作品を多数制作、発表してきている。『EYES WATERCOLORS』(マッチアンドカンパニー、2008)のように、純粋に絵画だけの作品集もある。今回も、テーマによって表現ジャンルを巧みに使い分けてきた彼の志向を貫いているということだろう。

今回の展示作品のテーマは「件(くだん)」である。頭が牛で体が人間というキメラ状の怪物は、ギリシア神話や中国の伝承に登場してくるだけでなく、内田百閒にも同名の小説がある。どうやら展覧会の会期が迫っていた時期に、急に思いついたモチーフだったようだが、作品を見ているうちに、不気味だがどことなくユーモラスなそのキャラクターは、野村の作品世界の登場人物にふさわしいものに思えてきた。まん丸の「眼玉」は、これまでも野村が固執し続けてきたイメージだが、今回も効果的に使われている。マネの「草上の昼食」やアメリカンコミックなどを巧みに換骨奪胎した作品もあり、野村のこのテーマに対する「ノリ」のよさが観客にも伝わってくる展示になっていた。さて、次は何が出てくるのか。まだしばらくはアイデアが枯渇しそうにもないので、その作品世界の広がりを楽しめそうだ。

公式サイト:http://www.poetic-scape.com/#exhibition

2022/10/27(木)(飯沢耕太郎)

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