artscapeレビュー
榮榮&映里「三生万物」
2011年08月15日号
会期:2011/07/02~2011/08/14
資生堂ギャラリー[東京都]
榮榮と映里の展覧会が東京・銀座の資生堂ギャラリーで始まった。彼らについては、以前artscapeの記事でも紹介したことがあるが、榮榮(ロンロン)が福建省生まれの中国人、映里(インリ、本名鈴木映里)が横浜生まれの日本人という異色のカップルで、2000年以来北京を中心に作品を制作・発表している。2007年には、中国では最初の総合的な写真芸術センター、三影堂撮影芸術中心をほとんど自己資金のみで設立し、中国現代写真の未来を見据えた活動を開始した。今回の展示は、その彼らの作品の日本における最初の本格的な紹介ということになる。タイトルの「三生万物」は「道は一を生み、一は二を生み、二は三を生み、三は万物を生む」という老子の言葉を引いてつけたのだという。彼らの作品世界をよく表わすタイトルといえるだろう。
今回は彼らが最初に暮らした北京の住居の取り壊しを、日記のようなスタイルで撮影した「六里屯」、三影堂撮影芸術中心の建物の工事現場を背景に、家族や仲間たちとの関係を細やかに綴った「三影堂」、男の子が続けて3人生まれ、家族が増えていく過程を記念写真のように定着した「草場地」など、主に2000年代後半以降の近作を中心に展示している。周囲の現実に対する違和、怒り、哀しみなどを二人の裸体を介在させて激しく問いつめていく初期の作品に比べると、眼差しはより柔らかくなり、穏やかな充足感が全体を支配しているように感じる。だがそれでも、私的な生のあり方を、身体的な表現に託して中国社会の強制的なメカニズムに対置させていこうとする彼らの姿勢は揺るぎないものがあると思う。おそらくこれから先も、彼らに降りかかってくるさまざまな困難に真っ向から対峙しながら、共同制作を続けていくのではないだろうか。
7月2日にワード資生堂(銀座資生堂ビル9F)で開催されたギャラリートークで、彼らが話してくれたことが感慨深かった。忙しい展覧会の準備作業の合間を縫って、気仙沼や石巻など東北地方の震災の被災地を訪れたのだという。もちろん、まだその経験がどんなふうに彼らの作品に反映されていくのかは、彼ら自身にもわかっていないようだ。だがまずは生と死とが交錯する被災地の状況を、目に刻みつけ、身体感覚として受けとめようとするその態度は、とても真摯で誠実なものであると感じた。
2011/07/02(土)(飯沢耕太郎)