2018年11月15日号
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artscapeレビュー

ハービー・山口「時間(とき)のアトラス」

2018年11月01日号

会期:2018/10/17~2018/11/10

Kiyoyuki Kuwabara AG[東京都]

ハービー・山口の写真展も、ありそうであまりない展示だった。東京・馬喰町のKiyoyuki Kuwabara AGの会場の壁には、写真のフレームが21個並んでいた。それそれのフレームには、対になった2枚のプリントがおさめられている。なぜ2枚なのかといえば、「相似形のテーマ」で撮影された写真を、対比するように並べるというのが今回の展覧会のコンセプトだからだ。

例えば、東京・五反田で撮られた写真には日の丸の旗が、ロンドンの写真にはイギリス国旗が写っている。京都とモロッコの写真を繋いでいる「相似形のテーマ」は石の階段だ。ほとんど同じポーズで窓から顔を出している人物を写した中目黒の写真には老婆が、フィンランドの写真には少女が写っている。東京とパレスチナで、赤ん坊を抱く若い母親を撮影した写真もある。寺山修司の写真と、パンクロッカーのジョー・ストラマーの写真を見て思わず唸ってしまった。二人ともテーブルの上に足を投げ出しているのだ。

「相似形のテーマ」を膨大な量の写真群から見つけ出し、その取り合わせを考えて写真を選び、並べていくハービー・山口の眼力と手際は鮮やかとしか言いようがない。しかも、それらが意地悪で批評的な視点ではなく、あくまでも「幸せそうな人々や、美しい人々や光景の写真を撮る」というポジティブな狙いで選ばれているところに、彼の写真家としての真骨頂がある。見れば見るほど、味わい深い、深みのある感情の波動が伝わってくるいい展覧会だった。誰でも同じようなことは思いつきそうだが、おそらく実際に写真を並べてみるとスカスカになってしまうのではないだろうか。ハービー・山口の写真家としての50年近い経験の厚みが、豊かな膨らみを持つ展示に結びついていた。

2018/10/17(水)(飯沢耕太郎)

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