artscapeレビュー

吉田多麻希「Brave New World」

2023年10月15日号

会期:2023/09/02~2023/10/29

東條會舘写真研究所[東京都]

2022年の京都国際写真祭で開催された「10/10 現代日本女性写真家たちの祝祭」展で、吉田多麻希の「Brave New World」シリーズを初めて見たとき、なかなか面白い仕事だと感じた。野生動物を被写体にしているにもかかわらず、いわゆる「動物写真」の範疇にはおさまることのない、ピクトリアルな画面構成が新鮮な驚きだった。その後、同年度の木村伊兵衛写真賞の最終候補にノミネートされるなど、注目を集めつつある彼女の同シリーズを、今回の個展でまとめて見ることができた。

会場となった東京・半蔵門の東條會舘は、創業111年という歴史を誇る名門の写真館である。その暗室や地下スペースのたたずまいを活かしつつ、吉田の作品世界の可能性をさらに大きく広げようとしている。その試みは、とてもうまくいっていたのではないだろうか。インスタレーションとして、見応えのある展示になっていた。今回が本格的な写真の個展としては最初だそうだが、今後もぜひ意欲的な展覧会を開催していってほしい。

ただ、ネガフィルムの現像に失敗して、染み(ムラ)ができてしまった画像を、「それはまさしく、わたしたちが自然に対して行なっている行為そのものだった」と捉え返し、作品制作行為の根幹に置くというコンセプトについてはやや疑問が残る。作品を見ると、エコロジー的な視点は言い訳に過ぎず、むしろ動物たちのイメージを「材料」として、視覚的な効果を追求しているようにしか見えないからだ。逆に、その反自然的な破壊行為をより徹底して追求することで(現時点ではまだ中途半端)、自然そのもののコントロール不可能な様相が、よりクリアに見えてくるのではないかとも思える。さらなる展開を期待したい。


東條會舘写真研究所:https://www.instagram.com/tojo_kaikan_photo_lab/

関連レビュー

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2022|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2022年06月15日号)

2023/09/05(火)(飯沢耕太郎)

2023年10月15日号の
artscapeレビュー