artscapeレビュー

東京ELECTROCK STAIRS『最後にあう、ブルー』

2012年06月01日号

会期:2012/05/10~2012/05/20

こまばアゴラ劇場[東京都]

ヒップホップのテクニックが体に染みこんだKENTARO!!主宰のダンスグループ、東京ELECTROCK STAIRSによる新作公演。いわゆる「日本のコンテンポラリーダンス」のなかでヒップホップをベースした作品というのはかなり異質。バレエ、モダンダンス、ポスト・モダンダンス、舞踏などを基礎にしつつも、たいていのダンス作家たちは独自のダンス言語を構築しようとし、観客は振付に織りこまれたその「言葉」を読みとろうとする。これに対してKENTARO!!が会話に用いるのはヒップホップというポップな言語。前者が砂から塑像をつくることに似ているとするなら、後者、つまりKENTARO!!の場合、同じことをレゴブロックで行なっているようなところがある。それぞれのパーツは、見なれた、一定のグルーヴ感をもったもので、それ自体に個性がない代わりにわかりやすい。時折、コミカルなジェスチャーや言葉が差し込まれつつ、それらが組み合わされると、「等身大の若者の肖像」がほのかに浮かび上がってくる。かわいくて、元気で、がんばっている若者だなと思う。とくにAokidのすべり続けるギャグやかっこよさとなさけなさとのあいだで固まったポーズなんてたぐいは、無邪気にいえば好きだ。けれど、そこで「人間」とか「社会」とか「歴史」が描かれることはない。一時間強の上演のあいだ、ダンスの振り、しぐさ、ポーズ、おしゃべりは観客を「くすぐり」続けるも、それらの身振りがひとつの物語あるいはメッセージへとつながることはない。「ひとつの物語あるいはメッセージ」なんてないから、観客は希望の「くすぐり」を選んで自由にくすぐられていればいい。その点、本作はとても現代的な作品構造をもっている。青春の肖像の周りに集うこのコミュニケーションが生み出すのは、外部のない、だから傷つくことのないよう構築された世界に見えた。

東京ELECTROCK STAIRS「最後にあう、ブルー」PV
2012年5月10日(木)~20日(日)@東京 こまばアゴラ劇場
2012年6月1日(金)~2日(土)@韓国
2012年6月22日(金)~24日(日)@京都 京都芸術センター(講堂)

2012/05/20(日)(木村覚)

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