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川床優『漱石のデザイン論──建築家を夢見た文豪からのメッセージ』

2013年03月01日号

著者:川床優
出版社:六耀社
発行日:2012年2月
価格:2,000円+税
判型:A5変型、261頁

夏目漱石の講演録や手紙などをもとに著者自身のデザイン論を著した一冊。武蔵野美術大学で建築を学んだ著者はインテリア出版「ジャパン・インテリア・デザイン」編集部などを経て、現在は株式会社メディアフロント代表を務めている。漱石のデザイン論を期待する人なら、物足りなさを感じるかもしれない。ただ、もともと著者が学生向けの教科書を自費出版したものに加筆し出版したということなので、「文化・歴史的背景 漱石の発言 著者の持論」の構成や内容には十分納得がいく。漱石は文学の道に進む前に建築家を志していた。「自分は元来変人だから、このままでは世の中に容れられない(…中略…)こちらが変人でも是非やって貰わなければならない仕事さえ居れば、自然と人が頭を下げて頼みに来るに違いない。そうすれば飯のくいはぐれはないから安心だというのが、建築科を択んだ一つの理由。それと元来僕は美術的なことが好きであるから、実用と共に建築を美術的にしてみようと思ったのが、もう一つの理由であった」★1と漱石はいう。親友の忠告によって建築家への道は断念するが、本書の随所に見られる漱石の芸術・文明批判は興味深い。[金相美]

★1──川床優『漱石のデザイン論──建築家を夢見た文豪からのメッセージ』、14-15頁

2013/03/01(金)(SYNK)

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