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ヴィチェンツァのパラディオ建築

2023年09月01日号

[イタリア、ヴィチェンツァ]

ヴェネツィアにも、後期ルネサンスを代表する建築家アンドレア・パラディオの作品、サン・ジョルジョ・マッジョーレやイル・レデントーレの教会は存在するが、《ラ・ロトンダ》(1566-67)やシニョーリ広場のバシリカ(公会堂)など、彼がより多くの仕事を手がけたのは、近郊の都市ヴィチェンツァである。ヴェネツィアのサンタルチア駅から電車で約40分程度、久しぶりに足を運んだ。パラディオの街だけに、彼以外の手がけた建築も古典主義のレベルが高い。以前、イタリア北部のコモを訪れたとき、ジュゼッペ・テラーニによるモダニズムの建築だけでなく、周りの集合住宅が十分に優れたデザインだったことを思い出した。ちなみに、ヴェネツィアは一部の建築を除き、割と構成や細部(バラストレードやアーチ)がラフであり、実はバラバラなのだが、その揺らぎこそが逆に魅力を生み出している。おそらく、日本人にとっては、ヴィチェンツァの古典主義建築は堅苦しいと感じられ、やや乱雑なヴェネツィアの方が親しみやすい。

規則に基づく古典主義に対し、知的な操作による創作の可能性を展開したのが、パラディオだった。昔来たときはなかったと思うが、彼の《パラッツォ・バルバラン・ダ・ポルト》(1569)を転用した、パラディオ博物館にまず入る。中庭や内部空間を体験できるだけでなく、数多くの模型を並べた展示がよかった。例えば、建設費のコストを抑えるため、かなりの部分が実は石造でないことを解説しており、やはり、柱頭など意匠の密度が高い細部に石を用いている。またモールディングはただの装飾ではなく、光と影を演出する彼の重要なデザインだという。パラディオによる透視図法を利用した劇場空間《テアトロ・オリンピコ》(1580-85)では、あまり大した内容ではなかったが、観光客へのサービスとして光と音のショーも行なうようになった。現代の展示空間を増築した《パラッツォ・キエリカーティ(絵画館)》(1609)では、地元の作家ベネデット・モンターニャやフランドル地方の影響など、ヴィチェンツァにおける中世以降の美術史をコンパクトに紹介する。この施設は地下にも企画展示室があり、展示デザインがよかった。



モールディングの展示(パラディオ博物館)




部位ごとの建材の説明(パラディオ博物館)




《パラッツォ・キエリカーティ(絵画館)》




《パラッツォ・キエリカーティ》の増築部分




《テアトロ・オリンピコ》


今回、初めて見学した《ガッレリア・デイタリア》は、パラディオの建築ではなく、17世紀にレオーニ・モンタナーリが建造したパラッツォを転用した現代美術館である。外観は細部が少しいびつになった程度だが、室内はリミッターを外し、やりたい放題のデザインで驚かされた。すなわち、古典主義の都市に対しては控えめな表情とする一方、超過剰なバロック的なインテリアを抱える。なお、美術館としては、ロシア・イコン画と夭折したイラストレーターのエレナ・クサウザの回顧展を開催していた。



《ガッレリア・デイタリア》のバロック装飾




フランチェスコ・ベルトスの彫刻《堕ちた反逆の天使》


2023/08/06(日)(五十嵐太郎)

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