artscapeレビュー

『震災のためにデザインは何が可能か』

2009年07月15日号

発行所:NTT出版

発行日:2009年6月5日

博報堂の筧裕介氏とstudio-Lの山崎亮氏らが中心となって「震災+designプロジェクト」を組織した。首都圏で震災が起こったという前提のもと、避難所でデザインに何ができるのか、学生が二人一組となってワークショップを行ない、そのデザイン案を競ったものを展示発表した。本書はその成果をまとめたものであり、社会とデザインの関係性についての提言にもなっている。
課題(イシュー)を発見し、それを解決すること。ごく当然のことのように思えるが、ここで注目されているのは単に問題を解くことではない。デザインによって問題を解くことである。既存のものにデザインをプラスし、デザインの力によって課題を解くことによって、単なる問題解決(ソリューション)から一歩前進する。見たいという欲望を喚起させ、共感を生み出す。またここでは震災という課題に対してデザインが適用されているが、デザインという行為を通じて、別の社会的問題の解決にも示唆を与える。
山崎氏はデザインと社会との関係性を問うている。震災は課題の一つであり、きっかけとなっているが、むしろそこからデザインとは何なのかという根源性について思考する。フランスのデザイナー、フィリップ・スタルクが「デザインの仕事に嫌気がさし、2年以内に引退する」と2008年に語ったことを引き合いに出しつつ、商業的なデザインと社会的なデザインを橋渡しする可能性に触れている。スタルクは商業主義的なデザインの限界を認識したのかもしれない。しかし、社会的なデザインはその限界を超える可能性もある。本書の大きな目的は、そうしてデザインと社会を架構していくことにあるのだろう。山崎氏らは、この後さらに別の課題に触れながら、デザインの力を試そうとしているようで、今後の展開が注目される。

2009/06/15(月)(松田達)

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