artscapeレビュー

金魚(鈴木ユキオ)『言葉の縁(へり)』

2009年08月01日号

会期:2009/07/24~2009/07/26

シアタートラム[東京都]

90分、息つく間もないテンション。鈴木ダンスの到達点を見た。彼の暮らす藤野の森のような静寂(トム・ウェイツが冒頭曲)は、同時に社会から隔絶された野性的な世界で(大きな枝やカモシカの角が効果的に舞台を飾る)、暴力に満ちている。荒涼として美しく、官能性に満ちた舞台。「官能性」とは、目が合えば衝突してしまう男たちや足を拡げて身を沈める女たちの仕草などに不意に薫るというだけではなく(それはそれで繊細でありとても美しいのだけれど)、徹底的に鈴木の振り付けをダンサー全員が身体化しているという至極ダンス的な事態から醸し出されているものなのである。ダンサーを鍛えるとは、こうしたことなのだろう。身体が振りを結晶させる媒体となって、みずからを殺す。そこに生命が煌めく。言葉が内と外を結ぶ道具だとすれば、その縁はやはり内を外と繋ぐ道具である身体と接触しているに違いなく、鈴木はきっとその接触をとらえようとこのタイトルを作品につけたのだろう。まさしくその接触の瞬間がこの作品に起こったかは定かではないけれども、身体が内を外と繋ぐときに起こるそのひりひりとした感覚は存分に味わうことができた。

2009/07/24(金)(木村覚)

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