2018年01月15日号
次回2月1日更新予定

artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

エリック・カール展

会期:2017/04/22~2017/07/02

世田谷美術館[東京都]

『はらぺこあおむし』で知られるアメリカの絵本作家・エリック・カール(1929-)の回顧展。おそらく偶然だと思うが、三鷹市美術ギャラリーの「滝平二郎の世界」展と会期が同じだ。そして興味深いことに、エリック・カールと滝平二郎の絵本は、その手法──切り絵──の点で共通している。ただし、その表現では両者はかなり異なっており、エリック・カールの作品はコラージュと呼んだほうが正確か。すなわち、あらかじめ薄紙を絵の具で彩色する。筆やナイフのテクスチャーはそのとき薄紙の上に現れる。そして色の付いた紙をさまざまなかたちに切り抜き、貼り合わせて人や動物、虫たちを構成する。鮮やかな色彩の組み合わせは同じ紙の上で絵の具を塗りあわされて生まれることもあれば、別々に用意された紙のコラージュで表されることもある。淡い色の薄紙を重ね合わせれば虫の羽の透けたイメージが表現できる。コラージュの上からさらに筆が入れられることもあるが、カールのシャープな輪郭の色面は紙を切り抜くことで生まれるのだ。この手法は、彼の初期の仕事である雑誌広告に現れ、これに目を留めた絵本作家で詩人のビル・マーチン・Jr(1916-2004)との共同作業によってカールは絵本の世界へと進むことになった。
回顧展ではあるが、展示は時系列ではなく、前半は原画やダミーブックがテーマ別に分けられ、後半はカールの生涯と彼が影響を受けた画家たちの仕事、日本との関係を語る作品と資料で構成されている。切り絵によるコラージュと言えばアンリ・マチスの《Jazz》が思い浮かぶが、じっさいカールは影響を受けた画家としてヴァシリー・カンディンスキー、フランツ・マルクらとともに、アンリ・マチスの名前を挙げている。展示作品の中では、絵本の仕事を始める前のものと思われる素描や、1950年代はじめのリノリウム版画が興味深かった。
以前からうすうすと感じていたことであるが、作品を通して見て、(こう書くと大いに誤解を招きそうだが)彼はあまり絵が上手くないのでは、という印象を受けた。動物たちはまったくリアルでないし、色彩も忠実ではない。彼の描く人物に美男美女は(ほとんど)いない。技法による表現の制約もあるかもしれないが、ダミーブックに見られるスケッチを見ても同じ印象だ。デフォルメというのともまた違う。線やかたちに様式を感じない。それならば彼の作品の魅力はどこから生まれてくるのか。物語か、色彩か、テクスチャーか、レイアウトか、『はらぺこあおむし』に見られるような造本上の楽しい仕掛けか。おそらくそのすべて。彼の作品が一枚ものの絵画ではなく、物語を持った絵本である以上、本の大きさ、重さ、紙の厚みも含むすべての要素の調和によって作品の印象がかたちづくられている。作品の原画が一つひとつばらばらに展示されていたことで、そのことが改めて意識に上った。そしてそこに思い至って、彼のキャリアがグラフィック・デザイナー、アート・ディレクター、イラストレーターから始まっていたことを思い出した。[新川徳彦]

2017/06/18(日)(SYNK)

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2017年度 コレクション展I 時を映す女性像

会期:2017/04/11~2017/06/18

BBプラザ美術館[兵庫県]

明治期から現代における女性像の表象を、西欧と日本の作家たちの作品から見る展覧会。神戸ゆかりの作家、松本宏(1934-2013)の特集展示を加え、館蔵品およそ70点が展覧された。西洋画が日本に導入されるにあたって要請されてきた基礎的な鍛錬は、裸婦像のデッサンであった。本展では、美術家たちが西洋由来の技法で平面に三次元的な女性像をいかに描こうとしたかという葛藤を、藤島武二や安井曽太郎らの裸婦像から垣間見ることができる。また日本近代の作家たちにとっての学習モデルとなってきた、ルノワール、ロダンによる作品も展示された。また、神戸に縁の深い西村功や横尾忠則、小磯良平、網谷義郎などの作品群も興味深い。なかでもデザインに関わって面白いのは、マリー・ローランサン《牡鹿》に見る衣装デザイン。彼女は、バレエ・リュス(ロシア・バレエ団)初演『牡鹿』の舞台装置と衣装を担当した。プーランクが作曲したこのバレエ音楽は、そもそもディアギレフに依頼されたもの。バレエ・リュスのコスチュームのなかでローランサンのそれは比較的シンプルであろうが、目に快い優しい雰囲気がある。展示品のなかでこのローランサンの描いた女性像だけが、女性作家による唯一のものというのも目を引く理由かもしれない。[竹内有子]

2017/06/17(土)(SYNK)

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カッサンドル・ポスター展 グラフィズムの革命

会期:2017/04/07~2017/06/25

八王子市夢美術館[東京都]

デザイン史の本ではおなじみのアール・デコ期を代表する偉大なポスター画家として知られるカッサンドル(1901-1968)。故 松本瑠樹氏によるカッサンドル・ポスターのコレクションをまとまって見るのは、東京都庭園美術館での展覧会(1991/6/2~7/14)以来。展示は初期のポスター作品からファッション誌『ハーパース・バザー』の表紙、書体の仕事などが、ほぼ時系列で構成されている。
展示作品の中で最初期のポスター、パスタの広告《Garres》(1921)や電球の広告《La Lampe Hag ge》(1923)には後にカッサンドルの作品を特徴付ける要素がまだ十分に現れていない。その特徴とはすなわち、幾何学を用いた構成、スピード感やスケール感の表現、大文字のみによるタイポグラフィ。これらの要素の組み合わせはカッサンドルによる「グラフィズムの革命」であり、その弟子、模倣者たちによって時代の様式となった。こうした特徴を備えた家具店のためのポスター《Au B cheron》がデザインされたのは1923年。カッサンドルが22歳のときだった。縦150cm、横400cmのプロポーションに樵と切り倒される木、そして背後に放射線を左右対称に配したデザインのポスターがパリの街に貼り出された当時、ル・コルビュジエはこの作品は「まやかしのキュビズム」と批判している。カッサンドル自身、作品へのキュビズムの影響を語っているが、彼の様式のダイナミズムにはキュビズムよりも未来派との近似性を感じる。はたしてそれは「まやかしのキュビズム」だったのか。このポスターは1925年の現代装飾美術・産業美術国際博覧会(アール・デコ博)でグランプリを受賞し、カッサンドルの評価を不動のものにした。代表作のひとつ《Nord Express》がデザインされたのは1927年。《Normandie》は1935年。彼のポスターの仕事は1920年代初めから1930年代半ばまでの15年ほど、20代前半から30代半ばまでのころに集中している。それは第一次世界大戦と第二次世界大戦のあいだ、後にアールデコの時代と呼ばれることになる時代のまっただ中だった。カッサンドルがポスターの仕事から離れ、絵画や舞台の仕事を手がけることになったきっかけには1935年の画家バルテュスとの出会いが指摘されるが、時代が求めたスタイルの変化も検討すべきだろう。広告はクライアントあってのものなのだから。
それではそのクライアントは誰だったのか。カッサンドルのポスターが広告したものはなんだったのか。例えばミュシャ(1860-1939)やロートレック(1864-1901)の代表的なポスターは舞台の広告だ。それに対してカッサンドルのポスターにはタバコ、酒、食品など商品に関するものが多い。そこには大量生産、大量消費という欧米における経済活動の変化と、広告されるべきモノの変容を見ることができる。なかでも1932年から始まった「DUBONNET」の一連の広告は、デザインによる企業と商品のブランディング、キャラクター化の例として興味深い。カッサンドルがこのワインの会社のために生み出したキャラクターは、複数のポスターのほか、灰皿や扇子、帽子などにまで展開されたのだ。また電信、鉄道、長距離航路、郵便など、通信・交通インフラの企業ポスターは同時代の技術革新と強く結びついており、やはりその前の時代のポスター画家の作品にはほとんど見られないものだ。
本展は埼玉県立近代美術館からの巡回展(2017/2/11~3/26)。久しぶりに見るこの素晴らしいコレクションが、関東の2館のみの展示で終わってしまったのはなんとももったいない。[新川徳彦]


会場風景

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2017/06/15(木)(SYNK)

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ヴァージニア・リー・バートンの『ちいさいおうち』─時代を超えて生き続けるメッセージ─

会期:2017/06/01~2017/08/09

ギャラリーA4[東京都]

ヴァージニア・リー・バートン(1909-1968)の『ちいさいおうち』は、子供のころに読んで印象に残っている絵本のひとつだ。いまでも手元にある。主人公は田舎の丘の上の小さな家。季節がめぐり、月日が経っても、小さい家はそのままだったが、周囲では次第に開発が進み、田舎の町が大都市へと変貌するなか、ひとり取り残されてしまう。20世紀初頭のアメリカにおける人々や街の変化を描きつつ、普遍的な物語に仕上げた傑作だと思う。バートンは自身の家を曳家で移動させた経験からこの物語を構想したそうだ。本展は代表作である『ちいさいおうち』を中心に、ヴァージニア・リー・バートンの生涯と作品を紹介する企画。展示は絵本作品の原画やスケッチ、ダミーブック、ハートンが中心となって立ち上げた芸術集団「フォリーコーブ・デザイナーズ」によるテキスタイル作品や、リノリウム版画とその原版、長男の彫刻家・アリスティデス・デメトリアスへのインタビュー映像などで構成されている。読書コーナーには英語版と日本語版両方の絵本が揃っている。そしていちばん奥の部屋には高さ2メートルほどの「ちいさいおうち」の模型(残念ながら中には入れない)。バートン作品の日本語版の翻訳者である石井桃子氏がバートンから贈られたテキスタイルで仕立てたジャケットとワンピースもある。L字型の展示パネルは開いた絵本を模した洒落たデザイン。会場内は撮影可。子供から大人まで楽しめる、入場無料とは思えないほど充実した展覧会だ。[新川徳彦]

2017/06/13(火)(SYNK)

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オープン・スペース 2017 未来の再創造

会期:2017/05/27~2018/03/11

NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)[東京都]

今年もメデイア・アートの新作が揃うが、過去にもあったような試みのバージョンアップ的なプロジェクトよりも、その作品自体が科学や社会のトピックに絡み、なおかつ美しさをもつタイプが好みである。それゆえ、アメリカにおける女性と銃弾に関する意外な切り口を提示するオーラ・サッツの《銃弾と弾痕のあいだ》の映像とインスタレーションが印象に残った。

2017/06/09(日)(五十嵐太郎)

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