artscapeレビュー

日本のアートディレクション展 2019

2019年11月15日号

会期:2019/10/23~2019/11/16

ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)/クリエイションギャラリーG8[東京都]

ADC(東京アートディレクターズクラブ)の年次公募展「日本のアートディレクション展」が今年度も開催された。ギンザ・グラフィック・ギャラリーとクリエイションギャラリーG8の2館で同時開催され、前者では会員作品のADCグランプリ、ADC会員賞、原弘賞をはじめ数々のノミネート作品の展示が、後者では一般作品のADC賞10点の展示が行なわれた。類似のJAGDA賞ではグラフィックデザインが中心であるのに対し、ADC賞はコマーシャルフィルムや環境空間なども含めた広告全般を対象にしている点が特徴だ。今年度、ADC賞に選ばれたひとつ、三井住友カード「企業広告」コマーシャルフィルムは、「電子マネー元年」と言われる現代の世相を象徴する内容だった。どこの国なのかわからない荒野に立つ青年が、旅人に出会い、「お金とは何か」という概念的な問いを突きつけられる。登場する役者は日本人なのに、まるで西部劇かロードムービーのワンシーンでも観ているような気分になる。こうした優れたコマーシャルフィルムがあることに、日本の広告業界もまだ捨てたものではないと思わされた。

ADC賞10点のうち3点も受賞したアートディレクターの三澤遥にも注目した。そのうち1点は自身の個展の環境空間であるが、2点はいずれも情緒的な手法を取りながら社会の問題解決に挑んでいたからだ。岡村印刷工業「興福寺中金堂落慶法要散華 まわり花」のジェネラルグラフィックは、紙の折りの構造を工夫することで、散華として空中に撒いたときに一輪の花のように映るようにした作品だ。人の目の残像を利用して、平面から立体への展開を可能にした。またLinne「LINNÉ LENS」のスマートフォンアプリは、スマホをかざすだけで1万種類もの生き物の名前を瞬時にサーチするAI図鑑である。生物多様性の問題を考えるきっかけを与えるという点で、やはり現代の世相を象徴する内容だ。


展示風景 クリエイションギャラリーG8[写真:那須竜太]

ADCグランプリを受賞したのは、アートディレクターの井上嗣也が手がけたCOMME des GARÇONS「SEIGEN ONO」のポスター、ジェネラルグラフィックである。これは約30年前のコム・デ・ギャルソンのファッションショーで使用された、ランウェイミュージックのオムニバスアルバムの復刻版である。凛とした黒い鳥を正面や側面から切り取った、写真の力を最大限に生かしたアートワークだ。コム・デ・ギャルソンといい、オノ・セイゲンといい、個性の強いクリエイターたちの作品であるにもかかわらず、それらに引けを取らず、と言って殺さず、絶妙なバランスでまとめている点が印象的だった。またADC会員たちによる審査風景を記録した短い映像が会場で紹介されていた点も良かった。身内による身内作品の審査ではあるが、審査の透明性や公平性を多少証明できたのではないか。


展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー[写真:藤塚光政]


公式サイト:
http://www.dnp.co.jp/CGI/gallery/schedule/detail.cgi?l=1&t=1&seq=00000741
http://rcc.recruit.co.jp/g8/?p=23149

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