2018年04月15日号
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artscapeレビュー

2009年09月01日号のレビュー/プレビュー

鴻池朋子 展 インタートラベラー 神話と遊ぶ人

会期:2009/07/18~2009/09/27

東京オペラシティアートギャラリー[東京都]

鴻池朋子の大規模な展覧会。これまでの創作活動を振り返る回顧展というより、過去に発表してきた作品と新作を掛け合わせて新たな物語を紡ぎ出した。それは地球の中心に向かって降り立ってゆく地底探検の神話。会場の入り口を地表面として、「地殻」や「外部マントル」などと名づけられた展示室を進むにつれて徐々に深度を深め、最終的にマイナス6,377kmの「地球の中心」に到達するという仕掛けだ。鴻池のファンタジックな作品は、ともすると私的な心象風景の現われとして理解されがちだったが、ここでは「心底探検」という小さな物語が「地底探検」という大きな物語に組み込まれているため、観客はおのずと自分の心の内側と身体の外側に同時に想像力を発揮しながら世界の根源に思いを馳せることになる。個々の作品とそれらを包括する文脈が有機的に結びつき、見終わったあと心地よい疲労感を味わえるほど、すばらしい展覧会である。

2009/07/22(水)(福住廉)

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小泉明郎

会期:2009/07/25~2009/11/08

森美術館 ギャラリー1[東京都]

ヴィデオ・アーティストの小泉明郎の個展。新作の《僕の声はきっとあなたに届いている》(2009)と、代表作の《ヒューマン・オペラXXX》(2007)を発表した。前者は息子が母親に電話をかけ、箱根の温泉に誘うシーンを映し出した映像作品。新宿の雑踏のなか、ひとり携帯で母に語りかける口調は気恥ずかしさと誠意が渾然一体となっており、その点で彼の「本音」が表われているように見える。だがその後、彼の姿と声はそのままに、母の声の代わりに企業の受付窓口やお客様相談センターの係員の声が挿入されると、事態は一転する。事務的に応答する係員たちの声と、母への親愛を吐露する彼の声は決して噛み合うことがない。誠実な「本音」を体現していたはずの彼の声は係員たちの機械的な発話をおちょくる悪戯じみた声に聞こえはじめる反面、むしろマニュアルという「建前」で武装しているはずの係員たちの声のほうが、彼の声になんとか誠実に対応しようとしている点において「本音」であるかのように聞こえる。一見すると、言葉のディスコミニュケーションをネタにしたお笑いビデオに見られがちだが、じつは言葉の「本音」と「建前」を錯綜させることによって、言葉の向こう側を切り開く傑作である。

2009/07/24(金)(福住廉)

美術の中のかたち──手で見る造形 藤本由紀夫 SHADOW─exhibition obscura

会期:2009/07/25~2009/11/29

兵庫県立美術館[兵庫県]

美術作品を触って鑑賞する本展。元々は視覚障害者を念頭に置いて始められた企画で、今年で20年の歴史を持つ。近年は現役作家と館蔵品のジョイントが売りになっているが、今回はサウンド・アーティストの藤本由紀夫が登場。自作のほか、ロダンとブールデルのブロンズ像、高松次郎の絵画、ルドン他の版画作品を組み合わせて展覧会を構成した。絵画や版画は触ることができず、本展本来の意図からずれているのだが、藤本の狙いは障害者と健常者の区別を取っ払って、「人が美術作品を理解するとはどういうことか」を根源的に問いかけることにあった。敢えて薄暗い部屋に作品を置くことで、ホワイトキューブ空間では絶対に得られない作品との新たな接触を演出したのだ。本展の歴史のなかでは明らかに異端だが、美術館に通い慣れたディープなファンほど考えさせられる企画である。

2009/07/25(土)(小吹隆文)

Chim↑Pom「にんげんていいな」

会期:2009/06/27~2009/07/25

山本現代[東京都]

Chim↑Pomの新作展。昨年のhiromiyoshiiでの個展「友情か友食いか友倒れか/BLACK OF DEATH」と同様に、Chim↑Pomにとってのホームである無人島プロダクションを離れ、アウェーである山本現代で新作2点などを発表した。ひとつは、メンバーによる宅呑みの乱痴気騒ぎを記録した映像と、その現場を食品サンプルなどで再現したインスタレーション《くるくるパーティー》。もうひとつは、メンバーの稲岡求が会期中にわたってほぼ絶食することで即身仏を目指す《making of 即身仏》。狂乱じみた宴会の残骸と、畳の上で座禅を組む稲岡くんの痩せこけた身体の対比が著しい。会期前半と二度に分けて見に行ったら、稲岡くんは当初より明らかに頬がこけ、手足も見違えるほどやせ細り、腰まわりの薄さといったら尋常ではないほどだ。本人によれば18kg落としたという。享楽的な飽食と禁欲的な飢餓の極致をこれほど明快に、かつ身体をはって、視覚化した例はほかにない。「食」をめぐるこの両極こそが、いま現在の私たちのリアルである。

2009/07/25(土)(福住廉)

まいにち、アート

会期:2009/07/18~2009/09/06

群馬県立近代美術館[群馬県]

群馬県立近代美術館が毎夏主催している「こども+おとな+夏の美術館」。今回は、淺井裕介、安部泰輔、泉太郎、KOSUGE 1+16が参加し、いずれも家族向けの展覧会という枠組みには到底収まりきらない、そして美術館の広大な空間に負けず劣らず、すばらしい作品を発表した。KOSUGE1+16は地元の小学生たちの自画像を周囲の壁に貼りつけて観客席を彩ることで、例の巨大なサッカーボードゲームを《AC-GM5(アスレチッククラブ群馬の森5室)》としてバージョンアップさせ、安部は同館所蔵の絵画作品の目前で、それらを古着で再現した作品を床に置いた。泉は、おそらくこれまででもっとも大きな空間を作りこんだ映像インスタレーションを発表。新作の《貝コロ》は、正直に言って「やっつけ感」が否めないが、それを差し引いたとしても、モニターを有機的に立ち並べ、天井まで最大限に使う手並みは鮮やかだ。そして、4人(組)のなかでも群を抜いていたのが淺井裕介。同館の中でもっとも高く広いと思われる壁面を目一杯使った巨大な泥絵のほか、紙ナプキンから封筒、ティッシュの箱などに描きつけた《日々のドローイング》、同館周辺で拾い集めた木々や岩を並べた《置絵》など、見る者を飽きさせない絵を存分に披露した。大自然と動物に囲まれながら生命の誕生を予感させる巨大な泥絵《大きな山》は、おそらく淺井のこれまでの制作活動にとって大きな達成となるにちがいない。次のステージでの活躍が楽しみだ。

2009/07/26(日)(福住廉)

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