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幻想絶佳:アール・デコと古典主義

2015年03月01日号

会期:2015/01/17~2015/04/07

東京都庭園美術館[東京都]

開館30周年を記念するこの展覧会は、1933年に建てられたアール・デコ様式の邸宅である朝香宮邸のアンリ・ラパンによる室内装飾の特徴を「古典主義」をキーワードに読み解く試み。両大戦間期に生まれた様式であるアール・デコは、アール・ヌーボーの流れるような曲線的デザインに対して、直線的、幾何学的な形態が特徴に挙げられる。合理的な精神を象徴するそのスタイルは、建築や工業製品に用いられ、また機械による生産や合成樹脂などの新素材を用いたプロダクトに現われたことで、新しい時代の都市生活と結びついた様式というイメージがある。しかしながら、アール・デコの絵画や彫刻、装飾美術に用いられた主題はさまざまで、けっしてモダンとは限らない。主題の源泉は時間と空間の双方の意味で多岐にわたり、エジプトや古典古代への憧憬、アジアやアフリカなどの異文化に対するエキゾチシズムも見られる。ラパンが描いた朝香宮邸の壁画にもまた18世紀の新古典主義様式からの引用が見られる。ではなぜこのような主題が選ばれたのか。展示では古典を主題としたアール・デコの作品が集められ、朝香宮邸の装飾空間を読み解いてゆく。
 本館展示室はその室内空間を活かして家具や美術品を配した「アンサンブル展示」を再現し、当時の博覧会の装飾美術の分野で行なわれた空間と美術との関係性が検証される。新館は絵画、彫刻、装飾美術の下絵など。しかしそれはモダンな生活を描いたものではなく、おもにローマ賞を受賞した美術家たちによる古典を主題とした作品である。美術の分野では第一次世界大戦後に秩序への回帰という傾向とともに古典古代への回帰が広範に見られた。ローマ賞の美術家たちはアカデミーで身につけた古典主義的な手法を下敷きにしながら、現代的な表現を生み出そうとしていたのだという。アンリ・ラパンはローマ賞受賞者ではないが、国立美術学校で絵画を学び、またローマ賞受賞者とともに公共プロジェクトを手がけている。すなわち、アール・デコの美術に用いられた主題の源泉は本来多様であるが、こと公共的空間の装飾について言えば古典的なモチーフが多くみられ、それはラパンが朝香宮邸のなかでも非・私的な空間である小客室・大客室・大食堂の3室に描いた壁画に古典的主題を選択したことと共通する。多様な主題を選びうるなかでなぜ古典主義なのかという問題に立ち戻れば、ヨーロッパ文化の正統に連なるモチーフとしての古典主義と、新しい時代の表現様式としてのアール・デコの組み合わせが、このような空間を生み出したことをこの展覧会は示していると理解してよいだろうか。[新川徳彦]


本館大食堂


新館展示風景

2015/02/18(水)(SYNK)

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